「駄目だ」


私の申し出を一刀両断して、どすんと勢いよく椅子に座るシャンクス。
先ほどまでのうきうきした気持ちが一気にしぼんで、えー、と非難の声を上げた。でも、シャンクスはもう一度、「そんなこと言っても絶対許さねェからな」と念を押す。
私は、むっとして頬を膨らます。ああもう、なんでなの、いいじゃないの、シャンクスのケチ、って。言ってやりたいけどそんなこと言っても覆らないって知ってるから言わない。


「みんなはプールで泳いでるのに」
「駄目なもんは駄目だ。何度も言わせるな」


普段の話し方とは全然違って、有無を言わせない低い声だった。
なんで怒ってるの、って言ったら、怒ってない、と返された。
私はただ、プールで泳ぎたかっただけなのに、どうしてそんな不機嫌になっているのだろう。クローゼットから出した水着が膝の上で行き場を失っている。


「ちょっとだけだから」
「時間の問題じゃない」
「泳ぐの嫌いなの?」
「そういうことでもない」
「じゃあ何が駄目なの」


そう訊いたら、黙ってしまう。
こんな調子では私は納得できないし、いざとなったら強行手段だって考えてしまう。…後が怖いから、ギリギリまで我慢するけど。


「…水着、着るんだろ」
「………はい?」


ぼそっと聴こえたシャンクスの声には棘があった。あ、違う。棘じゃない。棘に見せかけた、なにか。なんて言うのかな、わざとつっけんどんに言ってるだけ、の言葉。
思わず、首を傾げた。


「私の水着姿はそんなに目に毒ですか」
「いや、それは見たい」
「変態」
「否定はしない」


ククッとシャンクスは喉の奥で笑った。そして、「お前限定だけどな」と呟いた。
ますます意味が分からなくなった。さっきまでの機嫌の悪さはどこへいったのだろう。



「なに」
「水風呂でも入りに行くか」


名案だ、とでもいうように、シャンクスは顔を上げてそう言った。
ああどうしよう、ほんとについていけない。どういう発想なの、どうしてわざわざいつでも入れるはずの水風呂に行かなくちゃいけないの。おかしいじゃない、ねえ。


「…なんかおかしい」
「そうか?」
「うん。折角大きなリゾート施設がある島に来たのに、わざわざ船に篭って水風呂に入る意味がわからない。広いプールでゆっくり泳ぎたいと思わないの?」
「思うさ。けど、俺だけそうしたらお前は怒るだろ?」
「そりゃあ、怒るよ」


あたりまえじゃない。
船長室の外で、船員の楽しげな声が聴こえる。私も早くその中に入って遊びに行きたいと思うのに、父親以上に融通の利かないシャンクスが相手ではそれは叶いそうにない。
これはプールは諦めるしかないかなあ、と薄っすら思った。


「俺とおまえの2人きりなら、プールだってなんだって行くんだがな」


そう呟くシャンクスの言葉に、あ、と私は呟いた。
少しだけ振り返ったシャンクスは、にやり、と笑みを見せた。それを見て、私は俯いた。顔に熱が集まる。ああ、そっか、そうなんだ、って。私は漸く納得した。


「…で、どうする? プールは諦めて俺と水風呂に行くか?」
「…私はシャンクス以外見てないのに」
「お前が他の奴に見られるのが嫌なんだよ」
「独占欲、強すぎ」
「しかたないさ」


(それだけ、お前のことを愛してるってことだ)


そう言ったシャンクスの顔は優しい笑みを浮かべていて。
思わずその胸に飛び込んだ。






2010.08.31 三笠
(つまり御頭は貴女の水着姿を誰にも見せたくなかったわけです)