あなたの笑顔が好きなのです


雪が降ってきた。今年初めての雪だ。
初雪、なんて喜んでいるのは僕の周りでは一人だけ。僕自身はと言うと、まあ一応綺麗だなあ、冬が来たんだなあ、なんて思いはするけど、彼女ほど喜びはしない。だってこの国では、冬はマイナス20度なんて日もあったりして、冬という季節は厳しいものだって認識があるんだから。だから、僕の反応はしょうがないものだと思う。


さん。そんな格好で外に出たら風邪ひいちゃいますよ!」
「えっ、そう?じゃあコート持ってくる!」


雪が降ってきたことにはしゃいで、外に出ようとした彼女。もちろん今は室内で暖炉の火が部屋を暖かくしているものだから、彼女も僕もあまり着込んでいない。そんな状態で外に出たら、間違いなく寒さで凍えてしまうだろうに。
慌てて忠告すると、彼女は急いで自分のコートを取りにクローゼットへと向かった。


「雪なんてこれから毎日のように見られますよ!」
「いいの!初雪だもん、ティノくんも見に行こうよ」


緩んだ頬を隠しもせず、彼女は駆け足でコートを二人分持って戻ってきた。自分の分と、僕の分。それに手袋まで持っていて、外へ行く気満々だ。うっひゃー、寒いんだろうなあ、なんて考えたら、この温かい室内に籠っていたい気分になる。


「本当に行くんですかあ?部屋の中で見ていたほうがいいと思いますけど」
「えー、それじゃつまんないじゃない。すぐ戻ってくるから、一緒に行こうよ」
「うーん、じゃあ、ちょっとだけですよ」
「うん!ありがと!」


彼女は満面の笑みを浮かべて、僕の手を引いた。
玄関でコートを着て手袋をつけて。ブーツを履いたら、彼女は早くもドアに手をかけていた。それを見て、僕は慌てて彼女を引きとめた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!寒いんですから、マフラーもつけてください」
「えっ、」


言いながら、マフラーを彼女の首にかける。きつくしすぎないように、優しく巻き付けて、さらに毛糸の帽子を被せると、彼女はまた柔らかい笑みを浮かべた。


「えへへ、ありがとう」
さんに風邪ひいてもらいたくないですから」
「ティノくんは相変わらず優しいなあ」


あったかい、と彼女は呟いた。その言葉に、笑顔に、思わず僕までも頬を緩めてしまう。ああもう、可愛いなあ。そんなふうを思ってしまうのは、彼女のちょっとした我儘にも付き合ってしまうのは、きっと彼女に恋してるから。彼女とのこの関係がすごくすごく心地よくて、幸せで、あたたかいから。
だからきっと、来年も彼女に連れられて初雪を見に行って、クリスマスを過ごして年を越して、そしてまた春を迎えるんだろうなあ。ずっとずっと、毎年毎年、変わったり変わらなかったりする日常を過ごせたらいいなあ。
そんなふうに思いながら、彼女に腕をひかれて外に出た。
外は寒かったけど、繋いだ手は温かかった。









2010.11.28 三笠