とある冬島の洞窟の入り口。外では吹雪が吹き荒れる中、私は一人でそこに座っていた。温かなココアを両手で持ちながら、白い息を何度も吐き出す。 今日は生憎見張り番で、一晩中この場にいなくてはならない。 洞窟の奥ではクルーたちが宴会をしていた。楽しそうな声が遠くに聴こえる。毛布に包まりながら、ココアを少しだけ口に含んだ。
「寒くないのか?」 声を掛けられて、振り返りもせずに答える。聴いただけで、誰かなんてすぐに分かった。低い声、温かな声。外だけを見ていた私の隣にどすんと座った。黒いコート、赤い髪。ああ、やっぱりお頭だ。
「どうしたんですか?宴は?」 そう言いながらも、お頭はごくりごくりと喉を鳴らした。常に酒の匂いを纏っているような人だから、根拠なんてないけれど、多分お酒を飲んでるんだと思う。こっちまで酔ってしまいそうなほど、強いお酒の匂い。きっと今も酔っているんだろうなあと思った。
「なあ、」
お頭は、持っていた酒を私に手渡した。何故、と思わなかったわけではない。けど、お頭の言うことには一応従わなきゃいけないし、別に苦でもないし。片手にココア、片手に酒を持って、私はまた外に視線を向けた。異常、なし。
「あの…?」 お頭のコートが私までも包み込んで、お頭と私との距離がゼロになる。どくん、と心臓が高鳴った。ちょっと、近すぎる。でも離れると風が入る、寒くなる、お頭の好意が無駄になる。ああどうしよう、なんて考えてもなにも浮かばない。冷静なのは言葉だけ。少し冷めたココアを口に運ぶけど、そんなものよりお頭に密着した右腕が、足が、熱を持つ。どくん、どくん。はあ、さむい。そしてあったかい。
「俺の膝の上にでも来てくれたほうが暖かいだろうけどな」 そう言って笑って、お頭はまた喉を鳴らしてお酒を飲んだ。ごくり、ごくり、と喉仏が動くのが見えた。はあ、どきどきする。外を見ても、冷たい空気に触れてみても、この緊張は決して解けやしない。息を吐くと呼吸は白くなって消えていく。
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