温もりが優しい
とある冬島の洞窟の入り口。外では吹雪が吹き荒れる中、私は一人でそこに座っていた。温かなココアを両手で持ちながら、白い息を何度も吐き出す。
今日は生憎見張り番で、一晩中この場にいなくてはならない。
洞窟の奥ではクルーたちが宴会をしていた。楽しそうな声が遠くに聴こえる。毛布に包まりながら、ココアを少しだけ口に含んだ。

「寒くないのか?」
「寒くないように見えますか?」

声を掛けられて、振り返りもせずに答える。聴いただけで、誰かなんてすぐに分かった。低い声、温かな声。外だけを見ていた私の隣にどすんと座った。黒いコート、赤い髪。ああ、やっぱりお頭だ。

「どうしたんですか?宴は?」
「たまには、俺も見張り番してみようかと思ってな」
「お酒を飲んだら見張りは出来ませんよ」
「堅いこと言うなよ」

そう言いながらも、お頭はごくりごくりと喉を鳴らした。常に酒の匂いを纏っているような人だから、根拠なんてないけれど、多分お酒を飲んでるんだと思う。こっちまで酔ってしまいそうなほど、強いお酒の匂い。きっと今も酔っているんだろうなあと思った。

「なあ、」
「なんですか?」
「ちょっとこれ持っていてくれ」
「はい?」

お頭は、持っていた酒を私に手渡した。何故、と思わなかったわけではない。けど、お頭の言うことには一応従わなきゃいけないし、別に苦でもないし。片手にココア、片手に酒を持って、私はまた外に視線を向けた。異常、なし。
そしてまたお頭を見上げようかと思ったら、ふっと風が吹いた。すぐに視界が黒で覆われる。それと同時に少しだけ身構えて、でもすぐに力を抜いた。この原因であるお頭は、飄々とした顔で、こちらを見る。

「あの…?」
「ん、少しは暖かくなったか?」
「はあ、少し」
「それは良かった」

お頭のコートが私までも包み込んで、お頭と私との距離がゼロになる。どくん、と心臓が高鳴った。ちょっと、近すぎる。でも離れると風が入る、寒くなる、お頭の好意が無駄になる。ああどうしよう、なんて考えてもなにも浮かばない。冷静なのは言葉だけ。少し冷めたココアを口に運ぶけど、そんなものよりお頭に密着した右腕が、足が、熱を持つ。どくん、どくん。はあ、さむい。そしてあったかい。

「俺の膝の上にでも来てくれたほうが暖かいだろうけどな」
「じっ、充分暖かいですから、」
「そうか、それは残念だ」

そう言って笑って、お頭はまた喉を鳴らしてお酒を飲んだ。ごくり、ごくり、と喉仏が動くのが見えた。はあ、どきどきする。外を見ても、冷たい空気に触れてみても、この緊張は決して解けやしない。息を吐くと呼吸は白くなって消えていく。



黒いコートに包まれて、
(私の心臓はばくはつ寸前です)



2010.11.28 三笠