ベッドの中のあいつが、すごく幸せそうに笑みを浮かべて眠っていたから

「今すぐひっぺがして海に突き落としたい」
「…せめて浅瀬にしてやれよい」


いらいらいらいら。ああ、いらいらする。
隣に座っていたマルコが少し距離を置くくらいには、今の私は目に見えて苛立っているようである。それも仕方が無い話だ。
既に深夜、時計の針はとっくに天辺を通り越した。それなのに私はまだ愛しい愛しい布団にダイブ出来ないでいる。なぜこんなことになったのか。なぜ私はこんな真夜中に、見張り番のマルコの隣でため息なんかついているのか。
その原因はすべて、1人の男に集約する。


「あいつ、どうやったら起きるの」
「普通にやれよい」
「蹴っても殴っても、布団引っつかんで落とそうとしても、起きなかったし離れなかったわ」


エースのばか。
そう呟いた言葉に、マルコはため息をついた。

事の発端なんて知るか。
つまるところ、私の愛しい愛しいベッドで、私の大嫌いな、本当に大嫌いなポートガス・D・エースが現在進行形でグースカいびきをかいて眠っているということである。ああ、ああ。早くベッドに入って眠りたい。それなのにあいつのせいで眠れない。頼むからさっさとどこかへ消えてくれ。


「なんで私の部屋に不法侵入して、なおかつ私のベッドで居眠りこいてるのかしら…。ここが敵船だったら、即座に殺しているところだわ…」
「おっかねえなァ…。理由なんざわかるもんじゃねえかよぃ」
「…いやがらせ?」
「大ハズレだよい」


じゃあ他になにがあるの、と聞くけれど、マルコははあとため息をつくばかり。
挙句の果てには「…エースも苦労するよい」なんて呟いて、私の理性はぷつんと音を立てて千切れてしまうんじゃないかって思った。けれども、マルコはあくまで私の愚痴に付き合ってくれているだけであって、私が本来憎むべきは他の誰でもないエースであることは明らかだったので耐えた。そう、耐えた。


「まァ、嫌いな女のベッドにいきなり潜り込んだりはしねえだろうなァ」
「それはせめて相手も自分のことを好きだっていう前提でやってほしいものだわ」
「だから、それを確かめたんだろい」
「…もしそれが本当だったとして、もうちょっと方法はなかったの…」
「………もどかしくなったか…、それとも単にお前を訪ねたが不在で、ちょっと休憩のつもりでベッドを借りたらそのまま寝ちまったか」
「今思いついたでしょ。絶対後者だと思うわ」


夏島が近いらしく、最近は温度計が壊れているんじゃないかってくらいの気温が続いている。
夜はまだ少しだけ涼しい風が吹く。
その風が、少しだけ熱を持った私の頬を撫でていった。

(奴は私を好きだとして、私は奴を嫌いなことに変わりはないのに)
(好意を示されると悪い気はしない)

2011.08.25 三笠