「おい、俺への誕生日プレゼントは?」
「…えっ、それって榛名から強請るものなの?」
勝手に私の部屋に入ってきて、開口一番そんな言葉。
ちなみに、今は夜の10時。
榛名は部活終了後に直で来たのか、制服のままだ。
幼馴染だからって、こんな夜中に人の家に来るなんて、こいつに常識ってもの
が存在するのかどうか、甚だ疑問である、まる。
「てめー、まさか用意してないってことはねーだろうな?」
「いやいや、その台詞常識的に考えておかしいよね? 俺様何様榛名様は誕生
日プレゼントすらも強奪する気ですか」
「すら、って他になにも奪ってねーだろうが」
あっけらかんと言う榛名に、思わずため息が出る。
奪われたものなんて有りすぎてもはや思い出したくもない。
冷蔵庫に大事に取っておいたアイス、飲みかけのジュース、昼食用のパン、そ
れに幼稚園の時に奪われたファーストキス。
中学入学後はもうそれが当たり前になってきていちいち言うのも面倒になって
。
気付いたら、いま、こんな関係。
「自覚がないんならいいですー。で、なんだっけ。誕生日プレゼント?」
「おう」
今日が誕生日だってことは気付いていたし元々祝うつもりだった。
でも、なんだか自分から言うのも癪だったから(これ以上榛名を調子づけちゃ
良くないよねっ)、言い出すまで待っていようとは思っていたけど、まさかこ
んな形で来るとは。
机の引き出しを引っ張り出して、大事に大事にしまった箱を取り出そうとする
。
「なんだ、用意してたのかよ」
「もちろん。どうせ榛名が来るのは分かってたし」
「…つまんねーの」
は、と思わず呆れた声が口から零れおちた。
つまんないとはどういうことですか。
さすがにちょっと反論してやろうかと思って、視線を引出しから榛名へと移そ
うとする。
そのとき、ギィ、と小さな音が私の座っていた椅子が呻いた。
なんだか少し影が覆いかぶさってきて、えっ、あれ?あれ…?
「用意してなかったら、今年こそお前をもらおうと思ってたのに」
そう言って、半ば、ううん、完全に無理やり。
そいつは私の唇を奪った。
奪った、以外の言いようはない。だって、私たちはただの幼馴染で、恋人でも
なんでもなくて、過去にもそういった関係になったことはなかった。
なのに、榛名はいきなり唇を重ねてきて、挙句の果てに舌まで入れてきた。
…うわあ、なんだこいつ。ファーストもセカンドもどっちも持っていきやがっ
た。…ちなみにキスの話ですが、なにか。(ええもちろん彼氏なんていません
よ、そんな傾向もありませんよ!)
「んっ」
「…まー、今日はこれだけで我慢してやるよ。で、プレゼントは?」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ。おかしいよね!?おかしいこと分かって
るよね!? なんなの!?今のなんなの!?」
唇が離れて、すぐに榛名は上記のとおり、さすがの俺様的な発言をしたものだ
から、思わず私は掴みかかる勢いで、榛名に向けて反論した。
なんなんですか。いきなりキスするってどういうことなの。こいつはそんなに
飢えてるの?ていうかそんな簡単にキスできるの?えっどういうことなの、こ
いつは結局なんなの。
「なにって…」
「?」
「お前は将来俺の嫁になるんだから、キスくらいしてもいいだろーが」
奪われたのはわたしのすべて。(過去も現在も未来さえも)
(なんっなんっ、なんなのっ私がいつあんたと結婚するなんて言ったのよ!?
)(ああ!? てめー、まさか忘れたなんて言うんじゃねーだろうな!? お
前が幼稚園のとき…)(そんなの覚えてるわけないでしょー!?)
榛名さん誕生日おめでとうございますっ
2010.5.24 三笠
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