時は11月11日。言うなればただの平日。
いつどこでどんな暇人が考えたのかは知らないけど、今日はポッキーの日、というらしい。さらに言うと、それと同時に世間一般に広まっている遊びとしてポッキーゲームなんてものがあったりして。俺は今まで、そんなものとは無縁で過ごしてきたが、目の前に立つ彼女の手にはポッキーの箱が握られていて、さらには彼女の笑顔なんて見てしまったら、察するしかないだろう。彼女の意思を。
「ポッキーの日?」
「うん、ポッキーの日」
「やんの?」
「うん、だから買ってきたの」
と、無邪気な笑みを浮かべる彼女。―――間違えた、俺の彼女。
買ってきたばかりという、某菓子メーカーの細めが売りのポッキーの袋をがさがさと開けている。…どうでもいいけど、ポッキーゲームをするのに細めのポッキー買ってどうすんだよ…。
「ね、口開いて」
「あー、ハイハイ。…と、その前に確認」
何を確認する必要があるのかと、首を傾げる彼女。俺は、ちょっとだけ湧いた悪戯心を胸に、口を開いた。もしかしたらちょっとにやけてたかもしれない。
「ルールは、両端から食べ始めて3cmでお互い止める。それで合ってる?」
「ん、うん…。合ってるよ?」
「じゃあ、もし失敗したら?」
えっ、と彼女は声を上げた。俺は顔がにやけるのを抑え切れず、彼女に「顔がえろい」なんて言われてしまった。…別に変なこと考えてたわけじゃねーし…!
「失敗したら、何もないんじゃない?」
「何も?」
「うん。失敗したら残念でしたー、で終わり」
「それじゃあつまんねーだろ」
そう言うと、彼女は首を傾げた。ゲームなら罰ゲームがあって当然だろう。しかも相手が彼女なら。
それに乗じて可愛い彼女に悪戯したいと思うのも、また、当然。「罰ゲーム決めようぜ。もしミスったら、ミスった方がミスらなかったほう
にキス」
「えっ」
「ハイ、決定ー。じゃ、開始」
なにか反論しようとする前に、彼女の口にポッキーを宛がった。すると、彼女は閉口してしまって、不満げに俺を睨み上げた。
「ほら、口開けろって。そうしないとお前の負けだぞ?」
「卑きょ…っ」
「今更言っても遅いって」
喋りだした彼女の口にポッキーを捩込んだ。既にゲームスタート。それを分かっているのか、彼女はポッキーを折らないように慎重にポリポリと音を立てて食べていく。俺も反対側を口に含んで、ゆっくりと彼女との距離を縮めていく。
ぽき、ぽき、とポッキーを食べる音が段々ゆっくりになっていく。彼女は目を逸らし気味に、少しずつ口の中に含ませる。
ふ、と過ぎった悪戯心。多分、あとで怒られるだろうけど。まあいいか、と思って、そっと手を伸ばす。彼女の腰を抱き寄せようと、触れた瞬間、彼女の身体が跳ね上がった。びくり。そしてその瞬間、俺と彼女の間で、小さな音がした。ポキン。
「い、いきなりなにすんの」
「ちょっと触っただけじゃん」
「こんなときに変なとこ触らないでよ…!折角あと少しだったのに」
「ああ、ポッキー。折れちゃったな」
折れたあと、口に残ったポッキーをポリポリと音を立てて食べきってしまう。
顔を真っ赤にして怒る彼女はやたらと可愛い。
「で、キスは?」
そう聞くと、彼女は真っ赤になった顔で俯いて、素早く俺の唇を奪っていった。
11月11日。
2010.11.11 三笠