結婚してそろそろ半年。今朝も準太…、あ、ええと、旦那さまを玄関までお 見送り。鞄を持って、準太が靴を履くのを待っていた。 「あ、そういえば、今日遅くなるかも」 ぽつり、と準太が呟いた。え、と私の口から意味を持たない声がこぼれて沈 黙。同棲期間も含めて、準太からそんな台詞を聞くことは極めて少なかった 。忘年会とか新年会とか、送別会とか。そういう特別なときだけだったから 、今日はどうしたのだろうといろいろ考えてしまう。 「そんな顔すんなよ」 準太が、笑った。靴を履いて立ち上がって振り返って。そして彼は私を見る 。私は、彼を見上げる。彼の手が、私の頭に触れた。
「だ、だって…」
大きくて節くれだった手が、私の髪を撫でる。野球をしていた頃の名残なの
か、それとも男性の手はこういうものなのか。マメが潰れて固まった手は、
固くて大きくてガサガサしている。私はこの手がすごく好きだ。 「だから、お前はちゃんとイイコで待ってろよ」 分かったか、と準太は言う。こくりと頷くと、満足そうに準太は笑った。
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