03


授業終了のチャイムが鳴った。

答案用紙を受け取りに来た先生にそれを渡して、ありがとうございました、とお礼をして筆記用具を片付けていく。
5科目連続とかまじきつい…。
内容はそんなに難しくなかったから、どうにか全部埋まったけど。
でも、精神力全部使い果たした感覚…。
つかれた。

ふうと深いため息をついて、鞄と靴を持って教室を出る。
野球部のグラウンドは教室の窓から見えたから、昇降口で靴を履き替えて、そちらへ向かう。
さっきのチャイムで練習は終わったらしく、野球部員がごちゃごちゃ沢山いて、でもその中に金髪はいなかった。
ていうか近寄りがたい。私この学校の制服着てないし。
どうしよう、慎吾さんが何処にいるのか全くもって分からないし、誰かに聞くのも…、うん、話しかけるとかどうやるんだっけ。(ああもうどうしよう誰かいないの誰か!)


「あのー、誰かに用ですか?」
「(ビクッ)」


いきなり後ろから声が聞こえて、反射で振り返る。
と、そのとき校舎の影から見ていたために、窓の枠に思い切り頭をぶつける。
ガツン、と金属音がして、頭を抱えて痛みでふらつく。


「〜〜〜〜ッ」
「だ、大丈夫ですか?」
「す、すみません多分だいじょぶです」


軽く涙出たけどな!
どちらさまですか、親切な人なのはわかったけど、後ろから不意打ちで声かけられたら吃驚しますよ、私鈍いから!
顔を上げてその人を見ると、どうにもなんか知っているよーな…。


「あ」
「え?」
「わ、いえ、なんでもないですすみません!」


なんか見たことあると思ったら、和さんだ!
うわあ会っちゃった!中学時代はまだ身長伸びきってないからかな、あんまり高く感じない!そういえば慎吾さんもそうだったけど、私元々低いしなあ、これがさらに遠ざかるのかあ…、ショック。
顔を洗ってきたばっかりなのか、髪は少し濡れていて、タオルを首にかけていた。


「で、あの、誰かお探しですか? 外部の方みたいですけど」
「え。あ、はい。あの、島崎慎吾さんって何処にいらっしゃるか分かりますか?」
「慎吾ですか? 多分まだ部室にいると思いますけど…。あ、一緒に来ます?」
「いいんですか?」
「ええ、まあ。こんなとこに置き去りにされるのも気まずいでしょうし」
「わ、いい人!」
「(!)」
「(い、言っちゃった!)」
「ど、どうも」


軽く照れた和さんは、こっちです、と言ってゆっくりと歩き出した。
私もそれについていく。
大勢の野球部員の好奇の目が非常に恥ずかしくて、周りを見る余裕なんてなく、和さんの背中だけ見て、どうにかグラウンドに入った。
和さんが部室のドアを開けて、慎吾さんを呼ぶ。


「慎吾いるかー?」
「慎吾だったらなんか用あるとかでどっか行ったけど? 弁当は一緒に食うから場所取っとけってさー」
「…まさかとは思うが」
「…入れ違い、ですかね」


はあ、と部室の入り口で2人でため息をついた。
慎吾さんを待たせるなんてそんなおこがましい!と思って携帯を取り出すと、メール着信一件。…え、まさかなんですけど。


「わ。すみませんメール着てました」
「ああ。そっか。なんだって?」
「え、ちょっと待ってくれますか? 電話です」


マナーモードの携帯が着信を知らせるために震えて、急いで通話ボタンを押して、耳に当てる。
なんか若干懐かしい、慎吾さんの声。


『もしかしてもうグラウンドまで来てる?』
「す、すみません。なんか、はい。部室の前まで」
『あー、分かった。すぐ行くからその辺で待ってて』


それだけ言って、ぷつりと通話は途切れた。
ちょっと視線が痛くて、振り返ると部室の中からいくつか視線を感じた。
ちなみにちょっと上から和さんの視線も。


「慎吾、なんか言ってました?」
「あ、すぐ来るみたいです」
「和己、その人誰ー?」
「や、俺もさっきそこで会っただけだから」


視線を向けると、猫みたいな細い目をした人がいた。
あれ。もしかして山さん?かな。


「ふーん…」
「な、なにか?」
「別にー」
「そ、そう」


じいっとこっちを見てきて、凄く凄く、気まずい。
知らなかった、こんなに絡みづらい人だったんだね、山さんって!


「うん。ねえ、慎吾とどーいう関係の人?」
「慎吾さんとは、――従兄、です。多分」
「何で多分なんだよ」
「未だに実感湧かなくて、って、え、は、早かったですね、」
「走ってきた」


深く息を吐きながら、息を整えている慎吾さん。
和さんと同じように、タオルを肩にかけていた。


「試験、どーだった?」
「なんとか全部埋まりましたけど」
「そ。じゃあ受かるだろ」


お疲れ、とまた軽く頭に手を乗せて、労ってくれるけど、見たところ慎吾さんの方がお疲れみたいです。


「いえなんか、慎吾さんの方こそ、部活お疲れ様です」
「や、まあ俺は好きでやってんだし」
「試験ってなにー?」
「ああ、こいつ来年度から編入すんの」
「編入? 入学じゃなくて?」


首を傾げる山さんに軽く癒されつつ、小学生に見られていたことにショックを受けた。
入学って、入学ってそういうことだよね!?(まさか高等部に入学と思われていたわけじゃないだろう)


「あー、こいつ小さいからそう見えても仕方ねえかもなー」
「え。ちょっと慎吾さんまで!」
「はいはい。で、弁当何処で食う?」
「体育館前の廊下は? 5人分くらい空いてるだろ」
「じゃあそっち行くか。準太は?」
「監督に呼ばれてる。あいつの弁当も持っていかないとな」


そう言うと慎吾さんと和さんと山さんは部室に入ってお弁当と水筒を持って出てきた。
私はお弁当ないけど帰っていいのかわからないから一応待っていたら、慎吾さんは二つお弁当を持っていて、ん、と小さいほうを私に突き出してきた。
思わずそれを受け取る。


「え、え?」
「母さんから。どーせ持って来てねーんだろ?」
「そうですけど、でも」
「いーからいーから。食っとけ」


和さんと山さんが進んでいく中、慎吾さんもそれに続いて、私もそれに続いた。
あ、お礼言わなきゃ、って思うんだけど中々言えない。
どきどきしつつ声を出した。


「し、慎吾さん」
「んー?」
「あ、ありがとうございます」
「は? あー…、俺持ってきただけだし。親には帰ったら伝えとくけど」
「あ、いえ、叔母さんもそうなんですけど、慎吾さんも」
「なんで?」


なんで、って言われるとちょっと困るんだけど、とにかくいろいろ。
私一人だったら学校来れたかもわかんないし、今心細くないのも多分慎吾さんのおかげだから。
そういうの一々言うのもなんだか気恥ずかしいから、なんて言おうかなあなんてちょっと考えた。


「んー…と、一緒にいてくれるから、ですかね」
「…一瞬口説かれてんのかと思った」
「え!? いえ、そんなことないです、全然全くそんな気は!」
「分かってるけど、いやでも、今の台詞はなー」
「誤解ですから! 会ったばっかでそんなことあるわけないじゃないですか!」
「けどレンアイに時間は関係ないって言うし?」
「従兄弟ですから! 血が繋がってますから薄っすらですけど!」
「あ、俺等はこっち」


そう言って慎吾さんは和さんと山さんの向かった方向とは違う方向に向かった。
首を傾げつつ見上げると、くしゃっと慎吾さんは笑った。


「あいつらは一旦監督室寄ってくから。俺等は場所取りな」


途中、自動販売機(中学にもあるなんて、さすが私立!)で飲み物を買って、そして体育館前の廊下に適当に座った。
お弁当を置いて、他の人たちを待つ。
その廊下は校舎の外にあるから、他にも結構多くの野球部員がいた。


「そーいえば明日は俺部活休みだけど、どうする? なんか用あったら付き合うけど」
「え?」
「その辺の案内とか買い物とか。ない?」


そう言われて考えてみるけど、昨日見た限りでは、生活用品に不足はない。
食べ物が何一つ入っていなかったのは気になったけれど、それ以外に買うべきものはなかったと思う。
案内はもちろん嬉しいけれど、中学生とは言え慎吾さん。
野球部で忙しいはずなのにそんなことを頼んでいいのかなあ、なんて思ったりして。


「んー…」
「いや別に無理して行かなくてもいいけどよ」
「あ、嬉しいには嬉しいんですけど、慎吾さんって女物の店とか知ってるのかなあなんて」
「その辺は知らねーけど。まあ、商店街とか駅とかさ。最低限の地理くらいは覚えておいたほうがいいだろ」


最低限の地理、そう言われて気がついた。
私はこっちの世界に来てから、まだ全く出歩いていない。
慎吾さんに案内してもらわなくては学校に来れなかったし、昨日の食事のために地図を見ながら近くのスーパーに行っただけ。
やばい。相当やばい。


「う。そうですよね。私学校までしか今のところ分からないんですよね」
「こっち越してくるときはどうしたんだよ」
「え」


それはまあ、確かに疑問に思って当然のことなんですが。
引っ越してくるも何も、私は直接家に飛ばされたので道を通ってきたわけではないのですよ。
…なんて言えるはずもなく。


「駅から必死で地図見ながら来たんですけど、あんまり覚えてなくて」
「ふーん。まあ仕方ないかもな。いろいろ大変だったんだろ」
「えっと、それなりには」


多分、大変だったと思っているのは親が亡くなったこととか引越しだとか手続きだとかいうことなんだろうけど、私にとってはそんなものはいつのまにか終わっていたことだ。
大変だったのかどうなのか、今ひとつわからない。


「慎吾、悪いな遅くなって」
「お。和己」
「あれ、慎吾さんその人誰っすか?」


私が背を向けていた方から声が聞こえて、身体ごと振り返ろうとしたとき、最後の声が聞こえた。
もし、もしかして!
出来る限り平静を保とうとしながら、ゆっくりと振り返った。
丁度逆光になってしまっているけれど、あの人は私が何度も何度も夢みた、


「おー、準太。監督は何だって?」
「変化球の話っすよ。中学生のうちにあんま無理して投げすぎんなって」
「ああ、なんだそんなことか」
「そんなことってなんすか」


若干不満そうに言いながら、靴を脱ぎ、廊下に入ってきた。
私と慎吾さんは向き合って話していたから、何処に座ろうかちょっとだけ3人は躊躇った。
それで、私は慎吾さんの横に移動した。


「あ、悪いな」
「いえ。むしろ私の位置が悪かったので」
「なーなー、慎吾。その子の紹介はー?」


私の隣に腰を降ろした和さんと話していると、それを遮るように山さんが言い出した。
ちなみに、和さんの横に準さん、その横に山さんが座って円のようになった。


「あー…、つうか早く食わねえと時間なくなっぞ」
「そうだな。話は食いながらだな」


皆がばらばらとお弁当を開け、食べ始めたのを見て、私もお弁当を開く。
慎吾さんのより一回りどころか二回りくらい小さなそのお弁当の中には、ウインナーやサラダ、卵焼きにから揚げ、と意外と沢山敷き詰められていた。
ぱくぱくと食べていくと、どれも美味しくて、ずっと緊張していたから気付かなかったけどお腹空いてたのかなあと思った。


「あ、そんでコイツ。俺の従妹で。編入試験受かってたら来年から桐青に転入することになってる。ちなみに歳は準太と一緒」
「は? 慎吾の従妹?」
「あんまり…、似てないな」
「…俺と同い年…」


いつの間にか私に視線が集まっていて、不意に顔を上げる。
そんなに見られるような顔じゃないし、なんだかとても気まずいんですけど、どういう会話してたんですか。(全く聞いていなかった)


「え、なんですか」
「…お前、話聞いてた?」
「いえ、全く」
「はー…、今お前の紹介してたんだから、ちょっとは聞いてろよ」
「え」


皆結構な勢いでお昼を食べていて、飲み込んだらちょっと話す、の繰り返し。
言葉を挟んでいいのかいまひとつ分からない。


「あ、さん、でいいのかな。俺河合和己っていいます。なんかあったら何でも聞いてくれていいんで」
「わ、ありがとうございます。えっと、河合センパイ?」
「ああ、呼び方は何でもいいよ。呼びやすいやつで」
「はい、じゃあ、「俺山ノ井圭輔。よろしくー」


言葉を遮って言われて、一瞬思考が止まる。
なんて反応していいのか分からなくなって、言葉に詰まった。


「ええと、山ノ井、センパイ?」
「そうそう。長いなら山だけでもオッケー」
「う、山ノ井センパイで。よろしくお願いします」


慣れたら呼んでみようなんて、軽く心に誓った。
にこにこと(にやにやと?)笑いながらお弁当を食べる姿は軽く癒し。
イタチかなあ、リス系かもなあ、そんなことを思った。


「高瀬準太っす。受かったらテストん時ノートよろしく」
「はい?」
「おいおい、お前なあ」
「編入試験受かるって、イコール、クラスで5位以内に入るようなレベルって聞いた事あるんで。ってことは相当頭いいってことですよね」


…うん?
原作を読んでいた頃からずっとずっと大好きだった(一目惚れから入りましたがなにか?)高瀬準太さんが目の前にいる!ってことで、にやけそうになるのを必死で堪えていた私ですが。
今の台詞にはちょっと疑問を持ちました。
やっぱり桐青の編入試験なんてそう簡単に受かるもんじゃないんですねええええ!
そう、そうですよね。確かに難しかった!中学1年レベルじゃないだろこれっていう問題は沢山出てきました。
英語なんて、「This is a Pen.」のレベルかと思いきや、「If〜」とか比較級とか出てきたからね!
もう…、もう、脳は高校生で良かった…!(とは言え暗記系とか特に自信はないけど!)


「え、てことは相当頭良くないと受からないってこと、ですよね」
「だからお前は相当頭良いってことだろ」
「良くないですよ!まだ受かってないし! あああ合格発表恐ろしい!」
「合格発表いつだっけ」
「…1週間後、合格証書を自宅に送付するらしいです」
「あー…」


慎吾さんがお弁当をしまいながら、微妙そうな顔をしている。
中学校の編入試験、すっごく恐いんですけど、なあにこれ。私元々高校生だったのに!
うー…と微妙な声を出しながら、私はから揚げを口に含む。
ああ、おいしい。


「慎吾さん、叔母さんすごくお料理上手いですね…」
「…お前、いきなり話変わったな」
「いや、まあ、はい。うちの母よりは絶対上手いです」
「あ、そう」


もぐもぐとおかずを咀嚼していると、なにやら黄色い箸が私のお弁当から最後のから揚げを攫っていった。
口に卵焼きが入っていたから声は出せなかったけど、勢いよく顔を上げた。
口を動かしていたのは、黄色い箸の持ち主は、山ノ井センパイ!


「んー…、確かに美味い」
「ちょっ、それ私のおかずです!」
「あ、気にしない気にしない」


そう言いながら、また箸を私のお弁当箱に向けてきて、急いでお弁当を持ち上げる。
あと残っているのは、ポテトと卵焼きが一つずつ。


「も、もう渡しませんからね!」
「じゃあ俺がもーらい」
「あ、ああ!」


最後のポテトが、準さんの箸に連れ去られてしまった。
もぐもぐと口を動かす姿は確かにかっこい、いけど!
かっこいいけど私のポテト…。
私の最後のポテトがなくなって、残りは卵焼きが一つのみ…。
悔しい思いを込めて、思いっきり睨んでやったけど、準さんは全然気にした様子もなく、見ない振りをしてる。
ううう、酷い…けど、やっぱりかっこいいです、はい…。


「お前…、さっさと食わねえからだろ」
「私の速度は普通です!慎吾さん達の方が量あったはずなのに、なんで私より食べるの早いんですか!ちゃんと噛まないと良くないんですよ!」
「あー、はいはい。最後の卵焼き貰っちまうぞ」
「うっ」


そう言われて、私はすぐに箸を卵焼きに向けた。
そして、急いで口の中に入れて、ゆっくり咀嚼する。
わああ、いい感じの塩加減…!私は卵焼きは塩派なので、非常に好みの味です。うんうん。
そう考えていたら、河合センパイが肩を震わせて笑い出した。


さんは、食べてるときやたらと幸せそうだな」
「はい?」
「めっちゃ顔緩んでるの、気付いてねえ?」


河合センパイと慎吾さんにそう言われて、首を傾げる。
まさかそんな自覚はない。
食べているときはもちろん幸せですが、それが表情に出ているとは思っていなかった。


「そ、そうだったんですか…。実際、食事中は幸せですけど」
ちゃんはなに、料理とか上手い人?」
「う。包丁が使えない人です」


手のひらを広げると、既に2箇所、絆創膏が貼られている。
これはつまり、昨日の夜に夕飯を作ろうとしてやってしまったものだ。
…1日に2箇所って、5日で全指怪我するんじゃね…。


「え、なにそれ、包丁でやったの!?」
「あはは、まあ、ちょっと掠っただけです」
「…つーか、家で料理とかすんの?」
「あー…、私一人暮らしだから」
「…は?」


覗き込んでくる山ノ井先輩に手をぐにぐに触られつつ(あああなんていい感触!私は今、山さんの手に触っているのね!)、紙パックのお茶をストローで吸っている準さんに顔を向けた。
中学生で一人暮らしをしているなんて、多分、すごく珍しいことだし、準さんは顔を呆けさせた。(そんな顔もまた素敵!)


「お、そろそろ昼休み終わるし、グランドに戻るか」
「ん? あー、そうだねえ」
「俺、ゴミ捨てに行きますよ。なんかあります?」


慎吾さんの言葉にみんな従って、片づけを始める。
多分、慎吾さんは私に気を遣ってくれたんだろうなあ、なんて、ちょっとだけ思った。
親を亡くしたばかり、ってことになっているから。
実際、周りに知り合いは誰もいなくなっているから、同じようなことなんだけれども。
亡くしたわけではないけど、理由も原因も分からず、一人きりで別の世界に放り込まれたといえばいいのかな。私の状況って。

そんなことを考えながら、私もお弁当を片付けて元々入っていた袋に入れると、すぐに慎吾さんがそれを持ってしまった。


「え、え?」
「なに?」
「いや、あの、洗って返します、けど」
「や、いーよ別に。どうせ俺のも洗うんだし、大した手間じゃねーだろ」
「え、でも」
「いいからいいから。気にすんなって」


気にするなといわれても、お弁当を作ってきてもらって、洗わずに返すというのは気が引ける。
でも、これ以上ごちゃごちゃ言うのも慎吾さんに悪いし、今度なにか御礼をしようと心に決めた。


「あ、お前どうする?一人で帰れる?」
「う。た、多分大丈夫です。慎吾さん、今から部活ですよね。なら…、うん、一人で帰ります」
「待っててくれてもいーけど」
「え、」
「まあ、18時までだから、待つだけだとちょっとキツイだろーな」


そんな会話をしていると、準さんがゴミ捨てからぱたぱたと小走りで戻ってきた。
待つか帰るかと訊かれるとは思っていなかった。
ちょっとだけ、慎吾さんたちの練習風景を見たいという思いもあった。
けど、正直なところ、―――非常に眠い。
お腹が膨れて、睡眠不足が襲ってきたといえばいいのだろうか。
とにかく、眠いのである。


「…お前、今日はテストばっかで疲れてんだろ。道分かるなら、早く帰って休んだほうがいいと思うけど?」
「う、あー…、はい。じゃあ、そうします」
「ん。じゃあ、なんかあったらケータイに連絡しろよ」
「はい」


小さい子にするみたいに、頭をぽんぽんと軽く触れられて、すぐに離れていく。
校門とグラウンドへの道はこの場所から既に分かれていて、私は別の道へ行かなくてはならない。(他の部員の好奇の目に晒されたくないし)


「あ、の。皆さんありがとうございました!」
「いや、楽しかったし、こっちこそありがとう。受かってたら、また学校で会おうな」
「じゃーねー」
「あー…、じゃあ、また」


受かってたらまたお昼一緒に食べれるのかなあ、なんて思いながら。
適当な言葉を言って私は、野球部の集団から離れた。

きょろきょろしながら、必死になって記憶を辿って。
どうにか、うん、どうにか帰ることが出来ました。


とにかく今日は、寝ます。










暫く放置していた連載を引っ張り出して、第三話、完成しました。
野球部の皆さんと昼食です。なんて羨ましい…!

ヒロインは、特別じゃない女の子を描きたいと思っています。
ゆっくりゆっくり進む夢ですが、そのうち原作で描かれている部分にまで辿り付けたらいいなあと思います。
原作どころか、今はまだみんな中学生ですけど…!
西浦ーぜなんて、まだ小学生ですけど…!
中学生の彼らの3年間を、自分なりに想像して描いていきます。


2010 02 27 三笠