ゆるやかに、でも確かに、時は過ぎていくのです


朝の日差しが部屋に降り注ぐ。野球日和、なんて思うのは高校時代の名残だろうか。今も野球は続けているけど、以前よりも試合の機会はめっきり減っている。こんなに晴れてる日に野球で来たら楽しいだろうな、なんて思ったりして。
―――なんて思いながらも、今は二月。
布団の中でまどろむ中、その気温の低さに身震いした。


「準太?起きてる?」
「…ん、」


声が聴こえたのは、おんなじ布団の中。
もぞもぞと動いて顔を上げたのは俺の彼女。
彼女と同じくらいまで布団にもぐって、腕を伸ばすと、彼女は起きぬけの鈍い動きで俺の腕の中に入ってきた。


「今起きた。もうちょっと寝てたいけど」
「そだね。もうちょっとだけ」


今日は特に予定がない。欠伸を一つしながら、彼女のぬくもりに包まれる。
彼女のしなやかな身体は俺の腕にすっぽりと収まって、なんだか落ち着く。このまま二度寝したら昼まで起きられないだろうな、なんて思った。


「あ、そだ」
「ん…?」
「誕生日、おめでと」

「…え?」


枕元に置いていた携帯を開くと、確かに日付は2月2日。
俺の誕生日も2月2日。
お、まじか。確かに今日は俺の誕生日だ。


「そっか、さんきゅな」
「へへ。どういたしまして。プレゼントは後でね」
「なに、用意してあんの?」
「もちろん」


そう言って笑みを零した彼女の額に、キスを一つ落とした。
音は立てずに軽く口づけ、さっきよりもちょっとだけ強く抱きしめる。
誕生日にプレゼントなんて、今さら喜ぶ歳でもないはずなのに。胸を占める高揚感。思わず俺も笑みを浮かべて、彼女と足をからめた。
愛しい。愛おしい。


「やべ、嬉しい」
「…そんなに期待されても困るかな」
「や。そーいうんじゃなくって」


お前に祝ってもらえるのが、嬉しい。
そう言ったら、腕の中の彼女は頬を赤らめて、すり寄ってきた。
彼女なりの照れ隠しは甘くてずるい。
照れた顔も見たいのに、腕の中に潜り込まれたら思わず抱きしめてしまう。引き離して顔を見ることなんてできない。


「来年も再来年も、ずっと一番に祝えたらいいなあ」
「ん、俺も。ずっとお前に祝ってほしい。…もちろんお前の誕生日は俺が祝いたい」


彼女の髪を撫でながら、そう呟いたら、彼女の腕が背中に伸ばされた。
視線と視線が混じりあって、彼女が緩く微笑んだ。俺も自然と笑みを浮かべる。


「高瀬、キス」
「ん」


優しく彼女の唇に口づけて、柔らかくて瑞々しい唇を貪った。
ぬるりとしたそれに口づけてベットの海でまどろむなんて、世界で一番の贅沢だろう、と靄のかかった頭でふと過ぎった。
唇を離すと、照れたようにはにかんだ彼女があたたかく優しい。


(ずっと一緒にいられますように)

彼女を腕に抱きながら、そう強く強く願った。



2010.2.2 三笠