いくらお世辞にも「美味しい」なんて言えないような味だって、彼の笑顔の前には自然とその言葉が零れ落ちるの



「美味いか?」


さすが本場だと、思わず感嘆の息をもらしてしまうような見事な庭。
きっちり手入れされている草花は、まるで彼のように、傍目から見てなにひとつ隙がない。
しかし、完璧なんてものはもちろん有り得ないわけで、私は今彼の“完璧じゃない部分”を目の前にしている。

生焼けなのに外目は真っ黒焦げ。
そんな、彼曰く“スコーン”であるソレは、私の目の前で白い陶器のお皿に乗せられている。
一口だけ食べたけれど、…何といって良いものか、すごく独特な味でした。


「今朝作ったばかりなんだ。お前が来るってもうちょっと早く分かってたら、紅茶も良いものを仕入れたんだがな」


カチャカチャとポットとカップがぶつかって音を立てる。
澄んだ茶色の液体が芳しい香りを漂わせながらカップに注がれる。
それを目の前に、私はもう一度フォークを目の前のそれに突き刺してみる。
ぼろりと崩れたそれを掬って、もう一度口に運ぶ。
苦いやら粉っぽいやら、生焼けやら黒こげやら、なんだかいろんな味が口の中一杯に広がった。


「もちろん、美味しいです。すごく、美味しいです」

「そうか」

「はい」


そう言って、苦い苦いスコーンをまたもう一度口に運んだ。
アーサーさんの優しい笑みを前にしたら、少しの苦さくらい気にならなくなっていた。
彼との甘い甘い時間の中で、とてもとても苦く、なんとも形容しがたいスコーンの味など、なんて些細なことでしょう。



彼の笑顔が見られるのなら
(料理を褒められてすごく優しい笑みを浮かべるアーサーさんが好きなのです)(あとでお腹を痛めるのは既に恒例の儀式となりました)





2010 8 9 三笠