「不潔よ」
勝手に部屋に入って来たと思ったら、なんていう言い草だ。
そう言ってやりたいが、そう言われる理由がないわけじゃないので何も言えない。
なぜなら、俺は今ソファに横になって、いわゆるエロ本を読んでいたからだ。
「…ノックくらいしやがれ」
「どうせ、その本に熱中してて気付かないでしょ」
「いや、さすがに気付く」
本を閉じ、身体を起こす。
今さら本を隠すだとか慌てるだとか、そういうことをする気はないが――、どうにも居た堪れない。仮にも恋人である女に、こんな部分を見られたくはなかった。こんな考えすらも今さらではあるが。
「で、なんか用だったのか?」
「え? あー…、どうでもいいや」
「どうでもいいって…、お前なぁ…」
彼女は、気だるげに歩いて、俺の隣に座った。
細い腕が、首筋が、視界に入る。さっき読んでいた本の影響もあってか、どうにも色っぽく思えてしかたない。
「あのさ」
「なんだよ」
ソファに背中を預けたまま、俺の顔を見ずに話しだした。
本を乱雑に床に投げ出して、俺も同じように正面を向きながら返事をする。
「ぎゅーして」
「はっ!?」
しかし、彼女のそんな言葉には思わず驚いて振り返ってしまって。
そして彼女は全く動じずに俺をまっすぐ見つめ返して。
俺ばかりが焦っている状況がどうにも面白くなくて、必死で冷静なふりをした。
「だからさぁ、ぎゅってしてほしい」
「なんで」
未だ混乱している俺の頭は、彼女の言葉を素直に受け入れられなくて。焦りながら、そして訝しげに、彼女を問いただしてしまった。
そしたら、彼女は嫌がるでもなく、にこりと笑った。
「意味が必要?」
彼女の腕が伸ばされて、俺の顔の左右で両手が開かれて。
正面に見えたのは彼女の瞳。そこには俺が映っていた。眉をひそめて、口を一文字に結んだ、俺が。
「いや、別に…」
「ならいいじゃん。ほら、ぎゅーって」
ね、と一声続けられて。俺はしぶしぶといった様子を装いながら、彼女へと腕を伸ばした。背中に手をまわしてそっと抱きしめると、彼女の腕も俺の後頭部へ回り、ぎゅうと身体をくっつけあった。
「えへへ」
彼女が嬉しそうに笑うから、俺もなんだか嬉しくなって、ふっと笑みを零した。彼女の柔らかな身体が俺に凭れかかってきて、触れあったところが温かい。
「…どーしたんだよ」
「ん。んー…、どうしたんだと思う?」
「はァ?」
わかんねェよ、と言うと、彼女はまた、ふふふと笑った。
「欲情したの」
「…は?」
「アーサーもでしょ、ならいいじゃん」
シようよ、そう言う彼女は自ら身体を擦り寄せてきて。
まぁ、菊曰く「据え膳食わぬは男の恥」っていう言葉もあることだし。
抵抗も何もない彼女と、ソファに思い切りなだれ込んだ。
欲しいのは俺だけじゃなくて、
2010 5 25 三笠