「わああ時間ないあと2分で出なきゃいけないのに服決まんないどうしよううう」 今日は初デート。朝起きてご飯食べて服に着替えようとした。お気に入りの可愛い花柄のミニスカートに、シンプルだけど可愛すぎない程度にフリルのついたタンクトップ。 一昨日一度着て洗濯をしたから、絶対に乾いてると思ってた。 今は梅雨で乾きにくいのは知っていたけど、でも二日あればちゃんと乾くんじゃないかって。……でも、私の考えは甘かったみたい。 さっき触ってみたらまだ湿っていて、とてもじゃないけど着られる状態じゃなかった。 それを知った瞬間、私は急いでクローゼットを開いて、服を漁った。 「う、わ!もう時間ない、ああもうこれでいいや!」 そう思って急いで着たのは、普段から着ている無地のキュロットと柄物のTシャツ。せめて少しくらい可愛く見せたくて、普段つけないネックレスをつけ、薄く化粧をした。 ああもう、どうしてこんなことになってるの。 初デートくらいは可愛い服で早めに集合場所へ行って、ドキドキしながら彼が来るのを待ちたかったのに! でも、今そんなことを言ってもしょうがない。 待たせてしまうのは嫌だから、とにかく急いで家を出た。走って 走って走って、待ち合わせ場所に着いた。 「ごめ、遅れちゃった…!」 はあはあ息を切らしながら待ち合わせ場所に着いた。彼―アルフレッドくん―は当然だけどそこにいて、いつものように優しい笑顔を浮かべていた。 「なに言ってるんだい、時間ぴったりじゃないか!NiceRunだったよ」 「えっ、でも5分くらい遅れて…」 「No!ほら、これを見てごらん」 私が自分の時計を見ようとしたら、文字盤にアルフレッドくんの手が被さった。 そして、私に自分の時計を向けた。 デジタルの数字が10:00と表示されていて、彼の言うとおり、待ち合わせ時刻丁度だった。 でも次の瞬間、ピッと小さな音を立てて、時計は通常の時刻を示した。 10:09 「うわ!えっ、ちょ、なん、なんでこのタイミングで戻るんだい…っ、格好悪いじゃないか」 「……ふふっ」 きっと、時間がズレると自動で直してくれるタイプの時計なんだろう。 けど、アルフレッドくんがわざわざ時計をずらしてまで私を元気づけてくれたことが嬉しかった。 思わず笑みが零れて、照れるアルフレッドくんの前で、くすくすと笑った。 「参ったなあ…。もっと格好よく元気づけたかったのに」 「そのままで充分格好いいから大丈夫だよ」 不満げに頭を掻くアルフレッドくんを見ていたら、さっきまで悩んでいたことが吹っ飛んでいて。 思い描いてた理想の初デートの始まりじゃないけど、なんだかすごく楽しく思えた。 「そうだ、今日は一段と可愛いよ、」 「あはは、ありがとうアルフレッドくん」 付け足すように言われたから、軽く受け取った。 笑いながら、冗談を受け取るように、気軽に。 じゃあ行こっか、と歩きだしたら、そっと肩にアルフレッドくんの手が触れた。 抱き寄せるように、優しく、左肩はアルフレッドくんの手、右にはアルフレッドくん自身。予想外の近距離に、とくん、と心臓が跳ね上がった。 「ほんとにそう思ってるよ」 耳元でそう囁いて、それからゆっくりと肩から手が離れ、その手は私の手を握った。 早い展開に脳がついていかない。話すときに耳にかかった吐息とか、触れた手の温もりとか、意識があちこちに飛んで、脳が痺れて落ち着かない。 アルフレッドくんの大きな手が私の手を握る、その感覚だけがリアルだった。 にっこり笑って優しく手を引く、彼に今また恋をした。 2010.07.06 三笠 |