「はい、チェックメイト」 こつん、とチェス盤の上で私の駒が倒れる。 これで、5連敗。初めは惜しいところまでいってたのに、どんどん大差がつくようになってしまった。 「えー・・・、最初は手抜いてた?」 「まさか。全部全力だよ」 「え、似合わない」 「ほんとだってば」 くつくつ笑いながらジョージは駒を最初の形に動かしていく。 負けた悔しさでふくれながら、わたしも手を動かした。 魔法のチェス盤だったら、勝手に初期状態に戻るけど、駒が駒を壊すのがなんだか嫌で、わたしはいつも魔法のかかっていないチェス盤を使っている。 「最初はもっと接戦だったのに」 「アー、まあ最初はがどういう戦法でくるかわかんなかったし」 「・・・今はわかるってこと?」 「・・・ンー、わかるっていうか」 ジョージは思わずといったように吹きだして、そのままくつくつ笑いが止まらなくなってしまう。 なにそれ、感じ悪い。 むっとして、不機嫌をそのまま顔に表す。 もう勝てないしいいや、なんて思ってチェス盤の駒を箱にしまってしまう。 俯いて片付けていたから、こっちに顔を向けたジョージが、人差し指をこちらに伸ばしたのに気づかなかった。 「眉間。しわ寄ってる」 「!」 「そんなに不満? かーわいいからの敗因教えてあげてもいいよ」 眉間を指でつつかれ、びっくりして後ろに飛びのく。 おでこを手で隠して、飛びのいたそのままにソファに深くもたれかかった。 ちょっとだけ機嫌が直ってる単純さが少し悲しい。 「・・・敗因ってなに」 「・・・もうさ、まさにそれだよね。はーもう、相変わらず裏表がないっていうか、なんていうか」 「え、なに?どういうこと??」 「つまりさ、」 こっちこっちと手招きされて、少しだけ不信感を抱きながらも立ち上がってジョージの隣に座る。 ジョージのにっこり笑顔に、思わず首をかしげた。 なんでこんなにご機嫌なんだろう…? 危機感を覚えた瞬間、ジョージの手が私の腰と肩に回って、軽い締め付けとあたたかさ。 ぼっと顔が火照るのがわかった。 「ちょっとは警戒してもいいと思うんだけどなァ」 「え、なに、ど、どういうこと」 「んー、あーやわらかい」 抱き寄せられて、肩に顔をうずめられて、ああもう緊張する。 ちょっと骨ばった身体がなんだか心地よい。 「って、戦略が素直すぎてわかりやすいってこと。裏の裏を読まなきゃ俺には勝てないよ」 「え、」 「1つめのトラップには引っかからないのに、2つ3つ重ねたら全部ひっかかるから、もうかわいいのなんの。全部思ったとおりに動くのがもうなんていうか、」 くつくつと笑いながらそんなことを言うから、思わず顔が引きつる。 トラップが仕掛けられてたのは気づいてたけど、そんな何個も仕掛けられると一度では気がつかない。いつも後から気づいてた。 「〜〜〜うそ、」 「ほんと。俺とならいいけど、他のやつらとやっちゃだめだからな。特に賭け。ギャンブル。絶対負けるから」 「う」 「わかったらもう一回やる? 今度はの特製クッキーでも賭けようか」 顔を上げて、にやりと笑うジョージに顔を背ける。 負けるとわかっている勝負なんてやる気はない。 「や、やらない! 今賭けはやっちゃだめって言ったばかりじゃない!」 「俺以外とは、って話だろ? 俺とはいいよ。が満足するまで何度でも。たまには負けてあげてもいいし」 「〜〜や、だ!もうやらない!」 「そう?残念だなァ、じゃあクッキー作って」 「な、なんで」 「んー? 俺が食べたいから」 なんて軽く言い放って、頭を撫でられた。 そんな思い通りにばかりになりたくなくて、慌ててジョージを押しのけて立ち上がる。 「へ、部屋もどるから!」 「うん、おやすみ。よい夢を」 「! そ、その余裕すっごいやだ」 片づけたチェス盤をもって、談話室を出る。おやすみ、って言葉は小さく言っただけ。今頃またくつくつと忍び笑いをしているんだろう。 それなのに、なんだか嫌な気持ちばかりでないのは、きっと惚れた弱みというやつで。 (ジョージとは絶対に勝負事はしたくない…) (が嫌がるようなことは要求しないよ?) (! そ、それでもやなの!絶対負けちゃうから!) (時折負けてあげるってば) (それじゃ意味ないでしょ…) 2014.12.14 三笠 |