カランコロン、ベルの音が耳に届く。 2階にいた私は急いで階段を降りて、ベルが鳴った受付へと向かった。けど、階段の3段目で寝転がっていた猫につまずきそうになって、慌てて避けようと足を前に踏み出すけど、当然のことながらそこに床はなく、思い切り踏み外して転げるようにして階段を降りた。 階段の先の壁に思い切り体当たりするような状態になって、肩を打ちながらも小走りで受付のドアを開いた。 そこには、既にウィーズリー一家がいた。 「ああ、!お久しぶり」 「お久しぶりです、モリーさん。それに――」 「、申し訳ないけれど、挨拶は後で。ハリーが着いていないのよ。きっとどこか別の出口から出ちゃったんだわ!どうしましょう、近くにいればいいけれど――、」 「ハリーが?」 私にも経験がある。少し前か後か、別の火格子から出てしまったんだろう。 煙突飛行粉は便利だけど、目的地を言うときに煙や灰を吸ってしまうと上手く言えずに失敗してしまうことがある。 モリーさんは今すぐにでも外へ出て探しに行ってしまいそうなくらい焦っているのが分かった。 「わかりました、探してみます。30分もあれば、ダイアゴン横丁中を調べられますよ。きっと遠くへは行っていないはずです。――ええと、ネズミ? ネズミはいる――?」 自宅に続くドアを開いてネズミを呼ぶと、すぐに5匹ほどのネズミが姿を現した。足元に集まってきたところに手を伸ばすと、全員が飛び乗ってくる。 この子たちは基本的には家ネズミだけど、自由気ままにいろんな家へ出入りしている。他のネズミとも仲がいいし、きっとすぐに情報を集めてくれるだろう。額を合わせ、ハリーを探してくれるように伝える。 「見つけてくれた子にはチーズ1切れを贈るわ。なるべく早く、いろんな子に聞いてもらえる?」 チチッ、と返事をして、すぐに私の手から飛び降りてそれぞれがそれぞれの出口から出て行く。 それを見届けてから、今度は家の外のドアを開けて、近くに留まっている鳥を呼びよせる。 同じことを頼むと、鳥もすぐに飛び立っていった。 通りを見るが、特に異変もなく、ハリーの姿も見えない。 「? あの、調べるってどういう――」 「え? あ、今ネズミと鳥たちにこの辺りの火格子とか通りとかを全部調べてもらってるんです。見つかったらすぐに連絡が来るので、少しだけ待ちましょう」 心配で今にも出て行きそうなモリーさんを落ち着かせて、ドアを閉じる。 受付はウィーズリー一家(パーシーさん、ジョージ、フレッド、ロン、ジニー、モリーおばさん、おじさん)で一杯になっていた。 でも、どうにもその多くの顔が怪訝そうなのが気になって首を傾げる。 「あの、もしよろしければ中でお待ちください。教科書とか、いろいろ譲る約束もありますし」 「アー、、みんな知らないから説明したほうがいいかも」 「知らないって、なにを?」 「君が動物と話せること」 あ、と思った時には、ジョージ以外の全員が反応を示した。 自分もおじいちゃんもお母さんもそうだったから、つい当たり前のような気がしていた。そうだ、そうだった、うちの一族以外は違うんだっけ。 「…あれ? ジョージに言ったっけ?」 「アンジェリーナから聞いたんだ。どうせ言ってないんでしょ、って言ってたよ」 「あー、そっか。正確には話せるんじゃなくて、感情を伝えあうって言った方が正しいかも。動物は人間みたく複雑な感情も考えも持ってないし」 そう言っている間に、またカランコロンとベルが鳴った。 今度は外のベルだ。ドアを開けると、カラスが一羽留まっていた。 額と額をくっつけて、記憶を見せてもらって、それからお礼を言ってチーズを渡そうとして、やはりやめてパンを一切れ渡す。カラスはパンのほうが喜ぶ。ハリーを見つけたのは夜の闇横丁だった。あの場所から一番近い出口を脳内で思い描く。 「見つかったみたいです。大丈夫、ハリーは無事ですよ」 驚いた顔と、喜ぶ顔と、いろんな顔を見ながら外へ出る。 全員がついてくるのを見ながら、さっき見せてもらったばかりの記憶を頼りに小走りで移動する。 途中で、見つかったことを知らせるために、ネズミや鳥用の笛を吹いた。 すると、歩いている途中に何度か、チーズを貰えなくて残念そうな顔をしているネズミからの視線を感じた。 そして、人混みの中、遠くからでも目立つ大きな背中を見つけて、あ、と声を出す。 そのすぐそばに、ハリーがいた。 2012.8.6 三笠 |