09

10月も半ばを過ぎ、私は結局いつもどおりの日常に戻ってきていた。
へたな噂が流れたら嫌だなあと思っていたけど、グリフィンドールとスリザリンのクィディッチ・チームと私、アリス、ハーマイオニーにロン、その中ですべて収まっていた。
スリザリンが言いふらさなかったのは、ただ単に私を嘲ったとしても大して面白くないからだろう。目立つ人間じゃないし。

そんなこんなでのんびりとグリフィンドールの談話室で雑談をしていたら、一部で騒ぎが起きていた。なんだろう、とそちらを遠くから眺めていたら、どうやらジョージとフレッドが中心にいることがわかった。


「さてさて、ご注目の皆さん! 今からこの火トカゲにこちらの――フィリバスターの長々花火を食べさせてみましょう!」


そんな声が聞こえて、思わずがたんと立ち上がってしまった。そもそもその火トカゲはどこから連れてきたんだろうと思うけど、魔法生物飼育学以外ではありえない。まったく、とため息をついて座りなおした。あとから聞いたら、彼らいわく火トカゲは「助けて」きたという。まったく、何を言ってるんだか。


「もう、あの2人ときたら…っ」
「あら、止めないの?」
「今パーシーさんが男子寮から降りてきたから任せる…。はあ、火トカゲのトラウマにならないといいけど」


きっと騒ぎを聞きつけて降りてきたのだろう。
パーシーさんは辺りを見渡しながら談話室へ入ってきた。
そしてそのとき、火トカゲは花火を食べてしまったようで、わっと歓声が上がった。
火トカゲはヒュンと空中に飛び上がり、派手に火花を散らした。バンバン音を立てながら、部屋中を猛烈な勢いでぐるぐる回った。
パーシーさんはジョージとフレッドを猛烈な勢いで怒鳴りつけ、その間にも火トカゲは口から橙色の星を流していった。それはそれは美しい光景だったけど、火トカゲの状態を考えたらはらはらしてしまう。
1度の大きな爆発音とともに火トカゲは暖炉の火の中に逃げ込んだ。
私は、大きな歓声に包まれる談話室の中を縫って、暖炉の前に座り込んで中を覗き込む。出てくるように誘ってみるが、怯えている火トカゲは奥の方で縮こまっている。


「まったくお前たちは…! おい、火トカゲはちゃんと回収してもとの場所に戻すんだぞ!」
「わかってるって、パーシー」
「そんなに怒るなよ。ちょっとふざけただけじゃないか」
「ちょっとだと?」


それからも延々とお叱りの言葉は続いて、二人はやれやれと言ったように目配せをしていた。


「あ、あーっと、パーシー!ちょっと待った」
「火トカゲの回収をしないといけないんだよな? ちょっと救出に行ってきたいんだが、構わないよな?」


パーシーさんはどう考えても“構う”様子だったが、2人はそれにめげずに暖炉へと早足で近づいてきた。私の両端に座り込んで様子を聞いてくる。


「やあ、火トカゲの様子は?」
「奥の方で怯えてる」
「あれ、マジで? それは困ったな…パーシーのお説教に戻るのはどうやら時間がかかりそうだ」


後半はパーシーさんに聞こえるように大き目の声で言った。
周りで何人かがくすくすと笑って、パーシーさんは眉を吊り上げたが、仕方ないといわんばかりに自室へと戻っていった。


「にしても、2人ともやりすぎ」
「「イ…ッ!?」」


パーシーさんを振り返っていた頬を思い切り抓った。
ジョージは右頬を、フレッドは左頬を、ぐりっと強く抓ってすぐに放したが、その頬は赤く染まっていた。
2人は痛そうに頬を擦る。


「今度こんなことしたらもっと怒るからね」


そう告げると、2人は顔を見合わせて、くつくつと笑い出した。
口元を押さえて、私のいないほうに顔を背けて、堪えようとして全く堪えられていない姿を横目で見た。
えっ、なんで笑ってるの。


「こんなかわいい怒り方初めて見た」
「かっ…かか、かわいいって…」
「そうだな、とても14歳とは思えないよな。身長もちっちゃいし」


優しく微笑むジョージと、からかい口調のフレッド。
ジョージの言葉に顔を真っ赤にさせながらも、フレッドを横目で睨むが、効果はないだろう。


「い、言うほど子供っぽくない…」
「でも自分で思ってるよりはずっと子供だぜ」
「〜〜そ、その言葉、そっくりそのままフレッドに返す!」


欧州人に囲まれて過ごすと、身長とか体つきとか、どう考えても自分よりも早く成長していて、すごく、すごく羨ましい。
お風呂に入るとよくわかる。身長はまだしも、その、胸とかくびれとか、丸みを帯びた身体とか。いいなあと思うけどなかなか追いつきそうにない。


「まあまあ、、落ち着けって」
「わっ、ジョ、ジョージ」
「からかわれるだけだからフレッドには構うなって言ったろ?」
「う、」


肩を軽く抱き寄せられ、ジョージが優しく言った。
既に真っ赤の顔はこれ以上赤くなることはないけれど、近すぎる距離にどきどきした。


「それに、あんまり仲いいとこ見せられると正直妬ける」
「!」


ぼそ、と私にだけ聞こえるように囁く。思わず肩が跳ねて、ジョージはくすりと笑った。恥ずかしくて俯いたけど、そっとジョージの顔を見上げたら視線が合って、さらにどきっとした。あ、どうしよ、今、すごくジョージにさわりたい。ごくん、と口の中に溜まった唾液を飲み込んで、薄く唇を開いた。


「お2人さん、あんまりいちゃいちゃすると周りにばれるぞ」


ニヤニヤ笑いとからかい口調での一言。
ひっと小さく声が出て振り返ると、フレッドがこちらを見ていた。
そして今の自分の思考を反復して、恥ずかしくて居た堪れなくなった。


「ひっ、火トカゲは自分たちでどうにかして! わたし、部屋に戻るからっ」


片手を口元に当てて、真っ赤な顔を隠すように談話室への階段を駆け上った。
こちらを特に注目する人は見当たらなかったけど、誰かに見られていたらどんな様子に見えたんだろう。

部屋に入ってベッドに飛び込んだ。枕に顔を押し付けて恥ずかしさとかさっきの衝動とか、そんなものをぶつけていたら、ずっと部屋にいたらしいアリスに笑われた。



(あんな簡単にキスしたくなるなんて! うわあ、ああ、もう、もう…っ)

2012.8.18 三笠