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今年もハロウィンが近付いてきて、城内の飾りつけが変わり、生徒たちはハロウィン・パーティのことを噂し始めていた。
ジョージとフレッドは、相変わらずなにか作っているようで、あえて聞くこともせず、当日になった。


「んー、おいしい」
「ねえ、こっちのプディングもおいしいわよ」
「あ、本当。こっちのパイも生クリームたっぷりつけるとさらにおいしい」
「……ちょっと俺、信じられないもの見てるかも」
「女子の腹ってどうなってるんだろうな…」


ディナーももちろん美味しかったけど、デザートはさらに美味しかった。
カボチャを練り込んだプディングに、カボチャのマカロン。シナモンの香りが香ばしいアップルパイにほんのり苦いティラミス。
どれもこれもおいしくて、時間いっぱいまでデザートを堪能した。


「ああもう幸せ」
「ちょっぴり体重計に乗るのがこわいけどね」
「う…、それは言わないで。明日は森の方まで歩こうかな」
「行くなら私も一緒にね。ちょっとは運動しないと」


テーブルの上にはなにもなくなって、パーティは解散となった。
続々と寮へと戻っていくとき、 騒ぎは起きた。
ざわざわと騒がしく話していた集団が、ふと、なにかの拍子に静まりかえる。
なんだろう、と思って階段から覗いてみると、松明の腕木になにかがぶら下がっている。目を凝らして、すぐに分かった。猫、だ。


「継承者の敵よ、気をつけよ!次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」


ドラコ・マルフォイの声が聞こえて、思わず顔をしかめた。
壁に書かれている「秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ」の文字を見て言ったのだろう。
猫が傷ついているのを見て、それでもなお人を傷つけようとするなんて――。
猫が生きているのか、死んでいるのかすら遠目では判断できなかった。どうにか近づけないかと思うけど、混みあった状態ではそれも無理だ。


「なんだ、なんだ? 何事だ?」


アーガス・フィルチが人混みを押しのけてこちらへやってきた。そして、騒ぎの中心である猫の近くへ行き、すぐに顔色を変えた。


「わたしの猫だ!わたしの猫だ!ミセス・ノリスに何が起こったというんだ?」


金切り声がここまで聴こえて来た。手で顔を覆い、後ずさりをし、それでも猫から視線を離さなかった。そして、ふと近くにいたハリーを見た。


「おまえだな!おまえだ!おまえがわたしの猫を殺したんだ!あの子を殺したのはおまえだ!俺がおまえを殺してやる!俺が……」
「アーガス!」


すぐにダンブルドア先生の声が、フィルチさんの声に被った。他にもマクゴナガル先生など数名の先生を引き連れて、ダンブルドア先生はすぐに猫を松明から外した。


「アーガス、一緒に来なさい。ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャー。君たちもおいで」
「校長先生、私の部屋が一番近いです――すぐ上です――どうぞご自由に――」
「ありがとう、ギルデロイ」


なんだか嬉しそうにも見えるロックハート先生を引き連れ、ダンブルドア先生は廊下を歩いて行った。
その後にはマクゴナガル先生とスネイプ先生、それにポッターたち3人も続いた。
それを見送って、またぞろぞろと自分の寮へと向かう中で、やはりみんな同じことを口々に話していた。

その内容は、秘密の部屋について。



2012.10.16 三笠