既に3日も続く雨音を聞きながら、魔法薬の宿題をした。 図書室の一番奥の椅子は私のお気に入りの席。一番静かで一番辺りを見渡せる場所だ。 そこで、さらさらと羊皮紙に筆を走らせ、時折参考書のページをめくる。 「それ、魔法薬?」 「…そうだけど、クィディッチの練習はどうしたの?」 目の前に来たのは、アンジェリーナ。 少し濡れた髪をそのままに、彼女は私の目の前に腰を下ろす。 テーブルの上には、数冊の本と羊皮紙と羽ペンが置かれた。 「あら、試合は明日よ。今日は調整だけで、早めに終わったの」 「あ、そうだった。もう明日だっけ」 「そうよ。ねえ、ロックハートの宿題やった?」 「やったけど…。なんかもうやっつけだから見せられないよ」 既にまとめて鞄に入れた羊皮紙の1つがその宿題だ。 水魔の特徴を書けとか武装解除術の説明とか、今まであった「闇の魔術に対する防衛術」の宿題とは全く内容が異なって、戸惑うばかり。 今回の宿題は、「“雪男とゆっくり一年”の感想を詩であらわせ」といったもの。 これのどこが防衛術の授業なのか、甚だ疑問に思ってしまう。 「ロックハートを褒めればいい点数をもらえるかしら」 「んー…、たぶん」 「そうよね。じゃあ、そうするわ。気は優しくて、勇敢で、」 「誰もが噂するロックハート?」 ただ褒め言葉を並べるだけのアンジーの詩をくすくす忍び笑いをしながら眺める。 本当には思っていないことが丸わかりの内容で、時折私も思いついた言葉をつぶやくと、採用されたりする。 「そうね、それで、ええと−−雪の白に映える、輝く金の髪」 「ねえ、それただのロックハートを賛美する詩だわ」 「あら、だめかしら」 「雪男とのことを入れたらどう? 巨大な雪男に立ち向かう、真摯なロックハート、みたいな」 「それもらうわ。ンー…、その心中はいかに、で切ったら駄目かしら」 「それ、本の宣伝みたいに聞こえるわよ。わたしは面白くて好きだけど、詩じゃないわね」 「そうよねー…。意外と難しいわ」 書いたり直したりを繰り返すアンジーを見ていたけど、ふと思い出したように自分の宿題に戻る。 年々増えている宿題は、それと同時に難易度も上がって、参考書をめくる回数も増えた。前は教科書だけでどうにかなったのに、というのは言っても仕方がないことだ。 ―――と、下を向いて自分の宿題を見ていたところで、同じテーブルにまた別の人がやってきた。 「やあ、お二人さん。魔法史の宿題って終わってる?」 「さっきぶりね、フレッド。…これを見て、終わってると思う?」 「それは失礼。は?」 「終わってるけど見せないよ」 「相変わらず手厳しいな」 クィディッチメンバーは毎日毎日練習に明け暮れているから、宿題をする暇はあまりない。だからなのか、図書室でメンバーの1人を見ると、2人3人とまとめて見かけることは珍しくない。 今年のグリフィンドールメンバーは特に張り切っているらしく、雨の日だって気にせず箒を持っている。 アンジーが来たときにもしかしたらとは思ったけれど、続いてフレッドも席に座った。 「参考文献のメモくらいならいいけど、どうする?」 「もちろん見せてもらうよ。どのくらい時間かかった?」 「今回はそんなにかからなかったよ。1時間かからなかったくらい」 「オッケー、恩に着るよ」 メモを別のメモに写して、フレッドに渡す。 軽く目を通して、フレッドは荷物を席に置いたまま立ち上がった。 「じゃあ本探してくる。こことそこ、空いてるよな?」 「うん、空いてるよ」 フレッドは、自分の荷物を置いた席と私の隣を指差した。 空いていると返しながら、私は椅子に置いていた自分の荷物を床へと移動させる。 もしかしたらジョージが来るのかな、と考えてしまうのは当然のことだろうか。 「リーが来るから、そこも空けといて」 「え、ジョージじゃないの?」 「ご期待に添えなくて悪いけどさ。ジョージは部屋に戻ってるよ。宿題はあとでやるってさ」 珍しい、とつぶやいた私を見て、フレッドは苦笑した。 アンジーは私と同じように意外と思ったのか、首を傾げた。 「どうかしたの? 練習中はいつもどおりだったと思うんだけど」 「ああ、うん。あいつ、最近ちょっと元気ないんだよ。病気とかじゃないんだけどな」 そこまではアンジーを向いて、そしてそのあとでこちらを向いた。 そして声を潜めて、窺うように私に質問をした。 「…で、疑って悪いんだけど、。もしかしてあいつになにかした?」 一瞬間をおいて、してない、と返した。けど、今回の場合はしてないことが問題だ。 2012.1.2 三笠 |