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2人目の犠牲者が出た。
グリフィンドール生、コリン・クリービー。
まだ1年生だったからよくは知らないけれど、ポッターの大ファンで、カメラを持ってポッターを追いかけていた。
今は石になって、医務室に横たわっているという噂だ。


「ふう」
「あら、彼氏ができたばかりでもうため息?」
「……ジョージ関係でため息ついてるんじゃないよ」
「そうなの? じゃあ順調なのかしら」


聞こえない振りして紅茶を取りに行く。
いつもどおりのはずの談話室は、それでもやはり少し落ち着きがない。
それはコリンが石になってしまったからかもしれないし、昨日のクィディッチの試合で勝利したからかもしれないし、両方かもしれない。
何にせよ、ここで宿題をするのは間違いだったなあと思いながら、紅茶を2杯淹れて元いた椅子に戻る。


「飲む?」
「ありがとう、もらうわ」


珍しく隣に座ってきた彼女――アリシア・スピネットは、差し出した紅茶を受け取って、少し口をつける。
その姿が、金色の長い髪が、なんだか羨ましいなあと思った。
自分の黒い髪は、どうにもやぼったくて重たく感じる。


「で、どうなの?」
「…ジョージに聞けばいいのに。チームメイトなんだから、話す機会くらいたくさんあるでしょ」
「嫌よ。嘘なのか本当なのか判断できないもの」


カチャン、と音を立ててアリシアはカップをテーブルに置いた。
どうやらご機嫌斜めのようで、もしかしてジョージがなにかしたのかな、と漠然と思った。


「ねえ、あなたたち、本当に付き合ってるの? 好きなの? いつから? なんであの人なの?」
「え、いや、あの…、あ、アリシア?」
「あなた、前はウィーズリーのこと苦手だって言ってたじゃない。騒がしいのも悪戯好きなのも、あなた別に好きじゃないでしょ? クィディッチだってやらないし、共通点なんてないじゃない。それなのに、なんで」


不思議でたまらないわ、とアリシアはつぶやいた。
青い瞳はこちらを見ているようで、見ていなかった。
その視線の先は、――きっと今ここにはいない、


「…アリシア、もしかして、」
「私のほうが近かったのよ」


吐き捨てるように言うアリシアを見て、やっぱり、と納得した。
アリシアはたぶん、ジョージのことを好きなんだとおもう。それはきっと今も継続していて。
それなのにジョージに彼女ができてしまって、アリシアの中での喪失感はどれほどだろうか。きっとどんなに考えてもわからない。


「―――もし、わたしがあなたの立場だったら。告白されたらすぐ答えられたし、みんなの前でキスだってできたわ。ねえ、あなたはどれもできなかったわよね。それって、本当に好きなのかしら」


どきり、と心臓が痛んだ気がした。
すぐに荷物を持って立ち去ったアリシアの背中を見ながら、背後から刺されたような驚きと痛みが、胸の中を占めていた。




(すきだってことは疑いようもない事実なのに、客観的に見たらそうではないんだって、いまさらだけど気づいた。)


2013.1.5 三笠