秘密の部屋が開かれて、城の中は普段よりは騒がしく、落ち着かない雰囲気が漂っていた。 そんな中では落ち着かず、すっかり恒例となったホグワーツの湖のほとりで座り込みながら、ふうと息をつく。 「寒くない?」 急に背後から声が聞こえて、すぐに振り返る。 それと同時に、隣に腰をおろしたのは、ジョージ。さらにその隣にフレッドがいた。 「結構厚着してるから平気」 「そう? もう11月だもんなー。あー、寒い」 喋るたびに白い息が漏れる。 私は読んでいた本にしおりを挟んで横に置いた。 「なに読んでたの?」 「狼男との大いなる山歩き」 「ウワ、それってロックハートの本だよな? まさかもロックハートファンだっけ」 「ううん、まさか。本人はともかく、書いてあることは勇敢だなーと思って読んでるだけ」 ひどい言い草だな、とフレッドは笑った。 私はどうしてもこの本に書いてある内容の全てがロックハート自身が行ったことだとは思えず、別の誰か――もしくはフィクションのように思えていた。 本人は「自分がやった」と言い張っているのだから疑うことはしないけれど。 と、そこでふと先日のパーシーさんとの会話を思い出した。 「ねえ、最近ジニーが元気ないと思わない?」 「ん? そう言われてみればそうか?」 「この前やられたコリンとは知り合いだったみたいだし、まだ入学したばかりのジニーが落ち込むのも無理はない…かもな」 ジョージとフレッドは思い出すような仕草をしてそう言った。 そもそもホグワーツに入ったばかりでまだ慣れていないだろうから、家と同じようには振る舞えてはいないだろうけれど、最近は特に元気が無いような気がする。 「まあ、ハリーが声をかけてやれば一発で元気になる気もするが」 「だな」 「え? ポッター? なんで?」 「「………」」 ジニーとポッターが会話をしているところなんて見たことがないし、特別仲が良いなんて思ったことはなかった。 ポッターは有名だけど、ロックハートのようにファンが多いわけではない。(コリンがポッターファンなのは例外として) 「…まじでありえねえ…。一応女だよな…? おまえ」 「お、女だけど…。でも、ジニーってポッターに話しかけることもないし、そんな、特別な感情なわけじゃ… ない、よね…?」 「俺たちも最初はただのファンだと思ってたけど、崇拝と恋愛感情が混じってる感じじゃねーかな。まあどっちにしても、話しかけられれば舞い上がるレベルだと思う」 へえ、と曖昧に頷きながらジニーの様子を思い浮かべる。 そういえば時々ぼんやりとポッターの方を見つめているときがあったかもしれない。 「相変わらずそういうことには鈍すぎて驚くな」 「ホグワーツ内だけで気づけっていうほうが無理だってば。2人は夏休み中ずっと一緒だったんだから気づくだろうけど」 「まあ、ホグワーツではそんなにハリーのことは話してないみたいだしな。でも家ではすごかったぞ。口を開けばハリー、ハリー、ハリー。ロンにこびりついて話をせがんで離れなかったぞ」 じゃあ去年の賢者の石の話も聞いたのだろう。 ポッターはもともと有名だったけれど、さらにホグワーツ内では有名になってしまった。それがいいか悪いかはともかくとして。 「…じゃあ、ポッターに頼もうかな」 「なにを?元気づけてほしいって?」 「んー…、まあそんな感じかな。もちろん根本的には解決しないだろうけど、少しの不安を解消するくらいなら」 「それなら俺たちがどうにかするさ。そういうのは得意だからな」 なんだかんだ言って妹思い家族思いの2人は、ジニーは何を見れば元気が出るか、なんて話をし始めた。 話の内容はどうにも同意しにくいことばかりだったけど。 2013.1.30 三笠 |