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「もうすぐクリスマスだけど、は実家に帰るんだっけ?」


クリスマス休暇が近づいてきた頃、ふとフレッドにそう聞かれた。
フレッドが個人的に私に興味を持つのは珍しいと思いながら、小さく頷く。


「うん、そのつもり。今年は実家で過ごす予定だよ。おじいちゃんにも帰ってこいって言われてるの」
「ふうん、そうなんだ。クリスマスはジョージと過ごさないんだ?」


からかうようにジョージの名前を出すフレッド。
それに少しでも動揺してしまうのは、悔しいけど仕方のない事だ。


「く、クリスマスは家族と過ごすものでしょ」
「東のほうでは恋人と過ごす文化があるんだってさ。の先祖はそっちなんだろ? だから、そーいうこともありかと思ってた」
「先祖の故郷のことまでよく知らない」


アジア生まれなのはお父さんだけだし、私はアジアに行ったことすらないし、と弁解してみるけど、何を言ったところでフレッドのにやにやは収まる兆しがない。
イギリスで生まれてイギリスで育ったから、アジア系なのは見た目だけ。のはずだけど、少なからず影響は受けているようで、スキンシップが苦手なのはたぶんお父さんの家系からだとおもう。


「ジョージも俺もロンもジニーもパーシーもホグワーツに残るのに、だけいないとなると、ジョージは寂しがるだろうなあ」
「う。…フレッドは私に、ホグワーツに残って欲しいの?」
「いや別に。俺はどっちでもいいけど、ジョージがさ」
「じょ、ジョージの話じゃなくって、フレッドの話。わたし、フレッドのことはあんまり知らない気がする」


フレッドは、いつもよりも少しだけ目を見開いた。いかにも意外そうで、その反応はこちらからも意外に思う。
フレッドをよく知らない、のは確かだ。
ジョージのことだってすごくよく知っているわけではないけど、フレッドのことはさらによく知らない。前よりは知ってる、だけどきっとまだほんの一部だけだ。


「なに、俺のこと気になる?もう浮気?」
「ち、違う! そんなわけないでしょ!?」
「ジョージより俺のほうがちょっぴり大人だからなあ、そんな魅力にも」
「違うってば。フレッドのどこが大人なのよ。どちらかって言うと逆じゃないの」
「え? いや、それはない。絶対ない」


ありえない、とまで言うフレッドを前に、ふうと息をつく。
どちらのほうが、なんて比較に意味はない。だって、結局のところわたしたちはまだまだ子供だから。年齢だけの話じゃなくって、精神的にも経験的にも。いろんな面で、まだまだ、こども。
不満気なフレッドを見て、ふと、疑問を口にする。
ずっと抱えてた疑問。


「……フレッドって、私がジョージと一緒にいてもいいの?」
「は?」


口を半開きにして、こちらを見るフレッド。
どう考えても呆れている様子で、慌てて言葉を紡ぐ。


「2人は、2人が一緒のときが一番楽しいと思ってた。私が入らないほうが楽しいんじゃないかって」


ぼそぼそと、今まで思ってたことを言ってみる。
頷かれたら、正直なところショックだけど、それはそれで、すっきりするような気がする。


「……それ、本人に聞くのかよ」
「え」
「いーけど。答えるけどさ。これで嫌だって言ったらどうすんの? ジョージと別れる? 会うのを減らす? できないだろ、そんなの」
「で、できない…」
「だろ? だから、意味ねーだろ、そんな質問」


頭を荒く掻いて、くだらないとでも言うようにそっぽを向いた。
そういう仕草は初めて見た。


「否定はしないし、正直不満がないわけじゃないけど。けどに文句はない。のこと嫌いじゃないから」


こちらを見ながらそう言われて、どくどくと心臓がうるさいのがわかった。
嫌いじゃない、そう言われて、ほっとした。


「……はどうなんだよ? 正直さ、俺のこと邪魔だと思ってんの?」


意地悪そうな顔をして、フレッドはそう聞いた。
咄嗟に、口を開いて、否定する。


「ううん、まさか。そんなことない」
「そ、じゃあよかった」


軽く、そっけなく。嬉しいも不満もなんの感情もなさそうにフレッドは言った。


「それでいいだろ。ジョージなんて奪い合うほどのやつじゃねえし。お互い邪魔はしねーってくらいでさ」
「う、うん。邪魔はしない」
「ん。じゃあまあそういうことで」


これからリーとジョージと待ち合わせなんだ、と言ってフレッドは背中を向けた。


「羨ましかったら、ついてきてもいいけど」


…なんて、うそ。
そう言って、舌をべーっと出して、フレッドは廊下を駆けて行った。
一瞬呆けてからはっとして、思わず吹き出した。

なんだ、悔しかったんだ。

フレッドは生まれたからずっと、ずうっとジョージと一緒だったんだから、急に私なんかが入ってきて悔しくないわけじゃなかったんだ。
なんだかキモチがすとんと胸の中に落ちてきて、ほっとした。
私達はまだおとなじゃない、なんでもかんでも上手くは割り切れない。

くすくすと笑って、顔を上げた。
駆けていった後ろ姿はもうどこにも見えない。


2013.10.05 三笠