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放課後、外を歩いていると騒がしい音が聞こえた。
それが鶏の鳴き声だというのは、近づいてからようやく気づいた。


「…ジニー?」


後姿からでもわかる、真っ赤な癖っ毛。
振り返ったときの目がうつろで、ローブの目の前は鶏の羽で汚れていた。


「ジニー、あなた、なにをして」


鶏小屋の中でジニーの体が横に倒れた。
ばたん、という予想外に軽い音。それに鶏の鳴き声。
胸騒ぎが現実に変わった瞬間だった。




「っはぁ、はあ は…、」


あまり身長の変わらない彼女を運ぶのは、予想よりずっとずっと大変だった。
人のいない場所を選んで、ジニーの体を降ろす。
気絶した彼女の、汚れたローブの羽を片付けていく。
魔法も使って完璧にきれいにして、それからジニーの肩を揺らした。


「ジニー、ジニー、ッ」


何度も肩を揺らして名前を呼ぶ。
すると、ぼんやりとした様子でゆっくりと目が開いた。
ぱちぱちと何度か瞬きをして、それから私を見た。


「あれ…、? わたし、なんでここにいるの?」
「覚えて…ないの?」


なにを?と聞き返してきたジニーを見て、絶句した。
鶏を殺そうとしていたのは、何だったのだろう。
まるで、操り人形のように意思がないようだったけれど、本当に誰かに操られていたのだろうか。だとしたら、誰にーーー。


「ねえ、。わたし、どうかしちゃったのかな。最近よくあるの。時々記憶がなくなって、ローブにペンキがべったりついていたり、鶏の羽がたくさんくっついていたり、ねえ、わたし、なにをしていたの?どうして記憶がないの? ねえ、わたしおかしいのかな…、ねえ、…」


戸惑っているのは私だけじゃないようで、むしろ私よりもよっぽどジニーは混乱している様子だ。
落ち着けようと背中をさすると、ぼろぼろと泣きだして、私の背中に手が伸びた。


「ねえ、 わたしはどうしちゃったの?」


私は何も答えられず、しゃくりあげるジニーの背中をそっと撫ぜた。



2014.4.26 三笠