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ジニーの話はどうにも不明確で、自分がしたことは何一つわかっていないようだった。
鶏を殺そうとしていたのも記憶が曖昧なのも、どうにもジニー以外のだれかの企みによるものだろうと思えたが、材料が足りな過ぎてわからないことばかりだ。服従の呪文なんじゃないかって、思えたけれど、禁じられた呪文をかけられるような人間がホグワーツにいると思いたくなかった。考えすぎだって、必死で繰り返し思い込もうとした。


「ねえジニー、初めて記憶を曖昧になったときのことは覚えてる? その頃なにかおかしなことはなかったかな」
「わからない…、わからないの。私ってば、いろんなことが不安で、気になってしまって、いろんなことを悩んでいたの。あんなに楽しみにしてたホグワーツなのに、上手くいかないことばっかりだわ!どうしたらいいの、ねえ、ねえ」
「落ち着いて。みんなそうよ、みんな不安なの。みんながいろんなことを上手く出来ているように見えるの。大丈夫よ、ジニーはなにも悩むことなんてないわ」


ゆっくりと背中をさすって、ジニーの言葉を促す。
ぼろぼろと涙をこぼして、吐き出すように言葉を紡ぐジニーの気持ちは、わたしも痛いほどわかった。
入学して暫くは、いろんなことに必死で、余裕なんて欠片もなかった。
周りのみんなが自分よりも秀でているように見えた。こわくてこわくてたまらなかった。早く家に帰って、自分のにおいのしみ込んだ、自分の好きなものばかりの自分の部屋に籠っていたかった。
でも、ここが居心地よく感じたのはいつ頃からだっけ。1年生の後半くらいからだったかな。今はもう、ここが私のもう一つの家だと思うくらい、居心地がいい。


「話していいのよ。それで落ち着くのなら、気が済むまで全部聞くから。ね、ジニー。話してごらん。大丈夫だから、なにも悪いことにはならないから」
「…、」


ぎゅうと自分のローブの裾を握りしめて、ジニーは噛みしめた口を少しだけ開いた。私は一言も聞き逃さないようにと、ジニーの目を見て耳に意識を集中した。でも、


「……ごめんなさい、やっぱり言えない」
「ジニー…?」
「ちゃんと、相談してる人がいるから。大丈夫。ごめんなさい、今見たこと全部忘れて」


そう言ったかと思ったら、ジニーはすぐに走り去ってしまった。
話してくれるかと思ったのに、隠しようもないほどの落胆が胸の中に生まれていた。
ジニーはなにかを隠している。それはわかるのに、私はまだ彼女の信頼を勝ち得ていない。だから、聞けない。
ジョージだったら聞けたかな。フレッドだったら。もしかしたら、ハリーなら。
そこまで考えて、首を振った。
ほかの人に頼んで聞き出すことはしちゃいけないと思った。
自分の手に余るほどの内容だとは思ったけれど、だけどたぶんジニーは他の誰にも気づかれたくないと思っている。だから、言ったらいけない。

ジニーの記憶喪失は大変だけど、鶏を殺そうとしたのも見逃したらいけないことだけれど、でも秘密の部屋に関してのことよりずっと危険性は低い。もしかしたら精神的に追い詰められてそのせいでいろんな判断ができなくなっているだけなのかもしれない。
無理矢理にいい方向へいい方向へ思い込もうとした。
だって、そうでなかったら、ジニーはもしかしたら。



(方法はわかんないけど、秘密の部屋を開いた張本人の可能性だってあるんだから)

2014.4.27 三笠