「ねえ、次の土曜はホグズミードですって! クリスマスの買い物ができるわ!」 アンジーが息せき切って部屋に入ってきたかと思ったら、そんな言葉を言い放った。その言葉に、その部屋にいた全員がわっと立ち上がって、笑顔を浮かべた。私も同じように喜びの声を上げた。 「バタービールが恋しくなってたのよ。家に帰ったら飲めるけど、やっぱりみんなと飲みたいし」 「ハニーデュークスのお菓子もよ。ああ新商品が出てないかしら。妹へのクリスマスプレゼントは決まりだわ」 クリスマスが近くて浮足立っていたみんなだけど、さらにはしゃいでしまって、手が付けられない状態だ。 前回行ったときに買いだめたお菓子はもうなくなっているし、甘いものを食べられるのはすごくうれしい。 食べたいものや買いたいものを言い合いっこしているうちに、ふと甘い記憶がよみがえってきた。ああそういえば。去年ジョージと行ったときに買ったブレスレット。いつもつけているそれが少しくたびれてきてたっけ。直せないかなあと思いながら、手首を気にする。 「あら、もうジョージのことを考えてるの? せっかくのホグズミードもジョージにはこんなにあっさり負けちゃうのね」 「! あ、アリス…、じょ、ジョージのことじゃなくって、その、前にホグズミードで買ったブレスレットがちょっとくたびれちゃったから、」 「ジョージとデートしたことを思い出してるんでしょ、同じことよ」 少し不機嫌そうに、アリスは鼻を鳴らした。 「折角だから一緒に行きなさいよ。前みたいに途中からでもいいし。クリスマス前に楽しんだら?」 「…う、…うん」 ホグズミードでのデートは思い出すだけで胸が甘くなる。ああ会いたいなあと、毎日会っているのにそんなことばかり思ってしまった。ジョージとホグズミードへ出かけたのはあの一回きり。あの頃はまだ付き合っていなくて、いろんなことが不安でたまらなかった。関係が変わって、また一緒に行ったら、なにか変わるのかな。 「…さ、誘ってみる」 「行ってらっしゃい。午後からにしてね。お昼はおいしいデザートのお店に行きましょ」 「うん。わかった」 みんなが騒いでいる中で、そっと部屋を出た。 アリスが少しだけ寂しそうだったことに、気づいていたけれど、なにも言えなかった。 2014.6.22 三笠 |