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滑り落ちた先。
古びた地下道。辺りには生き物の死骸や瓦礫が散乱していた。
ロックハート先生が、忘却魔法をわたしたちにかけようとして、でも壊れたロンの杖を使った所為で逆噴射してしまった。ロックハート先生は記憶を失い、魔法の反動で古い地下道は一部崩れてしまった。ロンとロックハート先生と、私とハリー。二手に分かれてしまった。
ロンたちには少しでも瓦礫を崩してもらうように頼んで、私たちは先を急いだ。途中、とてもとても大きな蛇の抜け殻を見つけた。全長何メートルなのか、一目では測れないくらい大きかった。


「これは、蛇の抜け殻…?」
「ただの蛇の抜け殻じゃない。バジリスクの抜け殻だと思う」
「そうか。じゃあ、やっぱりハーマイオニーは正しかったんだ」


ハリーは一人でそう納得すると、どうして此処にたどり着いたのかを教えてくれた。ハーマイオニーが石化しても握りしめていた紙の切れ端。パイプの文字。バジリスクがパイプを通って城の中を移動していたこと。ハリーがバジリスクの声を聞いていたこと。
私も、自分の仮定を話した。ジニーが悩んでいたこと。魔法のかかった日記帳を手にしていたこと。それを、捨てたこと。


「……トム・リドル? それ、僕も拾ったよ! マートルのトイレで」
「え、どういうこと?」
「たぶん、ジニーが捨てたのを僕が拾ったんだと思う。日記に文字を書くと、返事がにじみ出てくるんだ。こんにちは、って書くと、こんにちはって返ってくる。僕は、前に秘密の部屋が開かれたときのことで知ってることはないかって聞いたんだ。そしたら、過去を見せてくれた。50年前のホグワーツを見たんだ。ダンブルドア先生も、ハグリッドもいたよ。ハグリッドはなにか危険な生物を匿っていて、それをトム・リドルが気づいて始末した」
「……それが、バジリスク?」
「いや、違った。蜘蛛だったよ」


ハリーは、ハグリッドがアズカバンにつれて行かれる前に言った言葉を教えてくれた。そして森に入り、蜘蛛と話した。50年以上前から生きている、大きな蜘蛛。話を聞くだけでぞくぞくと背筋が震えるような話だった。よくもまあ、そんな冒険をホグワーツでするものだと思う。森に入るなんて、普通は避けるはずなのに。
そんな会話をしていたら、大きな扉を見つけた。


「もしかしたら、この先にジニーがいるのかも」
「急いで開けよう」


しかし、押しても引いてもドアは開かない。そこで、ハリーが蛇語で「開け」と言った。すると、ゆっくりと扉が開き、その先には、開けた空間。


「ジニー!!」


ハリーがジニーを見つけて、走り出した。ジニーは、部屋の中央で倒れていた。その隣には、一人の男子生徒。見たことがない。
わたしも、同じようにハリーを追いかけた。頭の中で危険信号が鳴り響いている。どこにバジリスクがいるのか分からないし、ジニーの隣にいる男の子が何者かもわからない。でも、何故だか、去年例のあの人と対峙したときのことを思い出していた。ここにいるはずがないのに、あの威圧感を、恐怖を。思い出していた。




2015.12.26 三笠