翌日、ふくろう小屋に行って、祖父に手紙を送った。それには近況報告と一つのお願いを書いた。今年、秘密の部屋に関連して起きたこと。例のあの人と話した内容。全てを書くと羊皮紙3枚分になってしまったけれど、これを話さずにはお願い事までたどり着かない。夏休みまでもう少しだ。早めに連絡しないといけないだろう。
頼んだのは、去年のクリスマス休暇で会った人にもう一度会わせてほしいということ。その願いを叶えるには、もう一度アズカバンに行かないといけないから、正直なところ気乗りはしない。
「――シリウス・ブラック、かあ」
世間では犯罪者として認識されているシリウス・ブラック。彼に教わるのはやはりまだ少し怖いけれど、祖父の言うことが間違っていたことは今のところ無い。きっと私が成長するにはシリウス・ブラックに教わるのがいいのだろう。動物もどきになるための訓練がどういったものなのか分からないが、きっと変身術の延長線上にある。
少しでも予習になればと、図書館で変身術の本を借りた。動物もどきになる方法は見つからなかったし、ただでさえ難解な変身術。高度なものになればなるほど理解するだけで難しかった。
「スパルタだろうな……。あの人、絶対優しくない……。ただでさえ来年は、O.W.Lの年なのに」
遊んでる暇などありませんよ、とマクゴナガル先生がおっしゃっていたのを思い出した。あなたたちの将来に関わる大事な試験です、と。
まだ夏休みすら始まっていないのに、なんだか憂鬱だ。ずっと遊んでいられたらいいのに。ふうと一つため息をついた。
ふくろう小屋を出て少し歩いて、それからこっそりと厨房へ向かった。以前ジョージに教えてもらった通りの手順で厨房への扉は開く。そこではたくさんの屋敷しもべ妖精たちが働いていて、彼らは私の登場をいたく喜んでくれて、すぐに椅子やらお茶やらクッキーやらを差し出してくれた。
「ありがとう。あのね、少しだけチーズとパンを分けてもらえる? 本当に少しでいいの。そうね、パンは片手くらいの大きさで、チーズはその半分くらいの――ああ、違うの、一つで。うん、そう、本当に少しだけ欲しいの」
少しと言っても、大量に運んで来ようとする彼らに欲しい量を伝える。なにも言わないと本当に本当にたくさんの量を用意してしまうので、なるべく具体的なのがコツ、らしい。屋敷しもべ妖精は働くのが好きだから、ついつい張り切りすぎてしまうのだというのは、自分の家にもナーレという屋敷しもべ妖精がいるから分かる。
「ありがとう。これで充分」
必要な分だけハンカチに包んで、そして出してもらったクッキーをいくつかとお茶を飲んだ。これ以上いたら邪魔になるからと、さっさと腰を上げる。
「仕事の邪魔をしてごめんなさい。助かったわ、ありがとう」
そう言うと、また来てくださいませと歓迎する声があちこちから聞こえて、手を振って厨房を出る。そしてグリフィンドール近くの普段どの授業にも使われていない――埃だらけの部屋へと入った。この部屋の壁の隙間に、ネズミ達の根城がある。呼ぶと何匹かが顔を出した。
「この間、協力してくれたお礼だよ。ありがとうね」
パンとチーズを運びやすいようにいくつかにちぎって渡すと、喜んで住処へと持って行った。フィルチさんにばれたら怒られるだろうけれども、でもここにネズミがいることをフィルチさんはご存じないし(定期的にネズミは住処を変えるから、まだ気づかれてないということだけど)、これは必要なことだからと言い訳をする。私なりの情報網を張り巡らしておかないと、ホグワーツでは度々おかしなことが起きるから、いつかとんでもなく困ることになりそう。実は時々迷子になって道案内をしてもらっていた過去があるのは、誰にも言えない秘密だ。
ネズミたちにお礼を言って別れた後、グリフィンドールの寮に戻った。天気がいいし外で遊んでる人たちのほうが多い。談話室でゆったりと本が読めそうだ。
2018.12.30 三笠
|