新入生の頃のお話
「ここどこ…」


もうすぐ消灯時間。静かで何1つの音もしない。まだホグワーツに入学して1週間というこの時期。慣れてきたものの、実家と違う環境に気疲れしていた。城の外で鳥の声を聴きながらぼうっとしていると少しばかり気が安らいだ。夕飯後、外でそんなことをしていたら、気づいたときには消灯1時間前。焦って寮に戻ろうとしたものの、迷ってしまった。
どうしよう、このままでは寮に戻れない。
知らない人は怖い。幽霊もこわい。だけど、誰か出てきてくれないか。
そんなことを考えていたとき、キイとドアが開くのが見えた。あ、人がいるんだ。


「………こんなところで何をしている。ミス・
「!」


そのドアから出てきたのは、なんと、スネイプ先生。魔法薬学の先生で、スリザリンの寮監だ。なんとなく前評判で苦手な先生だった。授業は分かりにくくはないけど威圧感と嫌み満載で、気を張ってしまう。


「あ、あの、あの、ま、迷って、しまいまして」
「…はあ、これだからグリフィンドールの生徒は。自分の寮にすら帰れないのか」
「す、すみません…」


大きくため息をついて首を振ったスネイプ先生は、私の横を通りすぎてしまった。スカートの裾を握りしめてうつむいた。少しは期待したけれど、道を教えてくれはしないのだろうか…。


「このまま此処を彷徨かれても落ち着かない。ついてこい、グリフィンドールの寮は逆方向だ」
「…え」


カツカツと音をたてて先生は廊下を歩いていく。慌ててあとを追って足を進める。


「まったく、何故こんなに離れたところまで歩いてきたんだか。大体、こんな夜に外に出るなんて物好きにもほどがある」


スネイプ先生はつらつらと嫌みに聞こえる言葉を吐いていた。わたしは、はいとすみませんを繰り返して、話を聞いていたけど、なんとなく、この人は実は悪い人ではないんだと思った。だって、少し速いけれど私が追い付ける速度で歩いてくれている。一度も振り返りはしなかったけど、迷いなくグリフィンドールの寮へと送ってくれた。


「さすがに此処からの道は分かるだろう」
「はい、分かります。ありがとうございました」


言い切るより早く、先生は元来た道を引き返した。黒いローブが翻る。やはり、私と歩いているよりも速い歩き方だ。
グリフィンドール生には授業のたびに嫌われていく先生だけど、実は優しいところもあるんだなあなんて、失礼かもしれないけどそう思った。


2014.11. 9 三笠