「あ、あの、ジョージ・ウィーズリー、さん?」 今までなにひとつ興味を持たなかった女。 東洋の黒い髪を長く伸ばし、上の方でゆらりとまとめている。 美人かブスかといえば、まあ美人の部類。一言で言えば地味な女。 そんな女―・―が僕の名前を読んだ。 「優等生の嬢が何の用だよ?」 そう、フレッドがからかう様に言った。 によによと口元に笑みを浮かべて、の顔を覗き込む。 すると、は一瞬詰まったような声を出して息を呑んでから、視線をうろつかせた。僕を見ればいいのかフレッドを見ればわからない、とでもいうのか。もしかしたら、僕とフレッドの区別がついていないのかもしれない。(あれ、でもさっき僕の名前を呼んだし、区別はついてる、のか) 「こ、これ。今、落としたと思うんだけど」 「ん? げ、ジョージ。おまえちゃんとポケットに入れてるんじゃなかったのかよ」 「あれ」 ちらちらとは僕を見上げながら、一枚の羊皮紙をこちらに差し出した。頭一つ分くらい違うであろう身長。まだ成長期に入り立ての僕らとこんなにも身長が違うんなら、いざ成長期に入って身長が伸び始めたら一体どんなに差がつくんだろうか。なんて、小さいその女のつむじを見ながら思った。小さな白い手には古めかしい、傍から見たら何も書いてない一枚の羊皮紙。それは、見た目にこそ分からないものの、とある呪文を唱えることでホグワーツの地図が現れる、魔法のかかった羊皮紙だった。先生だって知り尽くしていないような細かな裏道など、悪戯をするにはもってこいの情報がこの羊皮紙に詰まっている。 僕は、しまってあった筈のローブのポケットを探ってみるが、やはりその羊皮紙は見つからなかった。見つかったのは杖とお菓子の包み紙、それにいくばくかのコインくらいで、やはりの手の上にあるそれが本物のようだった。 「悪いな。えーと、」 「ううん、渡せてよかった。じゃあ、これで」 分厚い教科書を抱えて、彼女は口早にそんなことを言って、ぱたぱたと去っていった。足を進めるたびに長い髪がゆらゆらと揺れた。 僕は羊皮紙を畳んで、今度こそ間違いなくポケットの奥深くに突っ込んだ。 「って同い年だっけ」 「ぶっ…、ジョージ。おまえさすがにそれはないよ」 「笑ってんなよ。だって見ただろ今のちっこいの」 「女なんてあんなもんだろ。僕らもう成長期入ってんだぜ」 そう言われて周りを見ると、確かに同い年の女はみんな僕らと頭一つ分くらい違う。 確かに今更言うようなことじゃねえかって、思った。 「お。急がねえと次の授業遅れるぜ。魔法薬の授業に遅れたらスネイプになんて言われるか分かったもんじゃねえよ」 「あっそうだな。急ごうぜ」 小柄で地味な女(聴いた話だと成績はいいらしい。どうでもいいけど)としか認識していなかった彼女と話したのは、今回がたぶん最初。 どうやら彼女は僕とフレッドの区別がちゃんとついていたようで、ちょっとだけ感心した。一度も話してなかったのに、よく分かったなあ、ってそのくらい。 フレッドと次の悪戯について話しながら、小走りで教室を移動していたらすぐに彼女のことは頭の隅に追いやってしまったけど。 後から思えば、多分このときから僕は彼女に魅了され始めていた、ような気がする。 2010.08.20 三笠 |