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あれから一週間。
一度意識してしまえば、その姿はなんとなく視界に入ってしまう。
薬草学、魔法史、魔法生物飼育学、意外と多くの授業が彼女と一緒だった。
彼女は女友達と一緒に授業を受けていて、どんなに退屈な授業でも(その代表的なものはもちろんビンズ先生の魔法史であることは言うまでもないが)居眠りすることはせず(これももちろん僕が知る限りではあるが(ちなみに僕が起きてる授業は彼女は起きているって意味である))ちゃんと起きてノートをとっている。彼女にとっては当然のことかもしれないが、僕にとってはそれは奇跡に近い。きっと僕には一生できない。(しようとも思わない)

チャイムが鳴ると同時に授業が終わった。
僕は素早く筆記具(殆ど使っていない)やノート(ミミズの這った跡のような文字が少々見えるだけ)を片付けた。
ちらりと彼女を見ると、友人となにやら話しながらノートを鞄に詰め込んでいる。妙に楽しそうに、時折笑い声を零していた。そういえば彼女の笑い顔を見たのは初めてかもしれない。…少し可愛いかもしれない、そう思った。


「おい、ジョージ。どうしたんだよ?」


既に片付け終わったフレッドとリーが声をかけてきた。僕は慌てて鞄のファスナーを閉め、2人の後を追う。なにやら僕はぼーっとしていたらしい。2人の訝しげな視線に笑みを浮かべる。


「次の悪戯について考えていたんだよ」
「おっ、なんかいい案思いついたのか? 廊下を沼にしちまうとか虹色爆弾を爆発させるとか!」
「なんだよそれ」


三人で笑い転げながら教室を出て歩いていく。けど、そんなときでさえさっきの彼女の顔が頭を過ぎっていた。なんでこんなに気になるのか。ふとそんなことを思った。けど、特に理由なんて思い浮かばないし、きっとあまりに情報が少ないから逆に気になるのだろう、と思い込むことにした。
地味で真面目でとくべつ可愛くも美人でもない、ただの同じ寮である女。
そんな女と関わっている暇なんて僕にはないと思った。

とくとくといつもより少しだけ早く脈打つ心臓の音なんて無視することにした。
これがなんの意味を持つかなんて、知らないほど子供じゃないはずなのに。




2010.08.20 三笠