03


朝食前、ふくろう便がいつものように食堂に集まって、配達をする。
まあ僕なんかはふくろう便が来ることのほうが珍しいくらいだから、誰かに面白いものが来てないかなあなんて考えることがあるくらいで、意識したことは殆どなかった。
ただ、随分遠くの席に座っている彼女、あー、えっと、の前にふくろうが降り立って手紙を置いていくのが視界に入って、少しだけ気になった。女友達がきゃーきゃー騒いでいて、なんだか自身も少しだけ嬉しそうに顔をほころばせていて、誰からの手紙だろうなあと思った。まあ、僕はの交流関係なんて殆ど知らないようなもんだし、家族が何人いるかすら知らないんだから、想像しようとしても無駄なのは分かりきっているけど。


「フレッド、ジョージ。今日の練習のことなんだが…」


ふと、そんなときに今のグリフィンドール・クィディッチチームのキャプテンであるウッドが声をかけてきた。彼女へ向けていた視線を慌てて戻し、ウッドへと顔を向ける。


「なに?」
「予定通り、放課後に行う。遅れずにな」
「わかったよ」
「ウッドこそ遅れんなよなー」
「はは。もちろんさ」


ここ数年、グリフィンドールは優勝を逃している。
だからウッドを含め、チームの全員がやたらと熱を入れて練習に取り組んでいる。もちろん僕もそうだ。今年は、あのハリー・ポッターがシンカーとしてチームに入り、いいチームだと皆が言っている。
クィディッチは楽しいし。退屈な授業中みたいにのことに(これについては本当にわけが分からないけど)思考を奪われないで済む。集中できる。そう考えたら、早く練習に行きたくなってきた。授業なんか忘れてずっとクィディッチをやっていられたらいいのに。


「ジョージ、」
「なんだよフレッド。改まって」


いきなりフレッドが僕の方を向いてちょっとだけ真剣な表情をしてこっちを向いた。バサバサとふくろうが飛び立つ音が聴こえる。に手紙を届けていたふくろうも飛び立っただろうか。さっき見たとき、はふくろうにビスケットを与えていた。もしかしたらまだふくろうはそこにいるかも。いやふくろうのことはどうでもいい。彼女が受け取った手紙は一体誰からでどんなことが書いてあるんだろう。女子が騒いでたのは何故だ。もしかして。…もしかして考えたくないけど男から?いやまさかそんな。
ぐるぐるといろんなことが頭の中を巡っていて落ち着かない。フレッドを見る目がおどおどしていないかとふと頭を過ぎった。いやまあそんなことはどうでもいい。問題は―――、問題は、なんだ?


「おまえ、最近変だぞ」


そう言って、フレッドは僕の口に百味ビーンズを突っ込んできた。思わずすぐに噛み砕くと、微妙な味が口いっぱいに広がった。


「うげえ…、フレッドおま…」
「何味だったんだよ」
「耳くそ味」
「ぶはっ…まじか!ほら、次は多分カレー味だ」


ジョージの手のひらからまた一粒のビーンズを手に取る。軽く色を見て確かにカレー味のような色をしている。思い切ってそれを口の中に入れた。そしたら、確かにカレー味で当たりだったものの、その前の耳くそ味と混ざって、口の中が酷いことになった。


「うっわ…、フレッド。耳くそ味とカレー味を一緒に食うとさらに不味いことになるぞ」
「一生試したくない組み合わせだな」


けらけらとフレッドは笑っていて。僕も顔をしかめながらも段々と笑えてきて。
百味ビーンズの絶対試したくない組み合わせを2人で話していたら、いつの間にか朝食の時間になったらしく。用意された朝食を食べながら、僕たちはまたいつもどおりに悪戯について話し合っていた。


けど、フレッドは多分このとき既に気付いていたんだと思う。
僕の異変。
それと、僕がそのことについて気付いていないこと。


このとき僕は安心していた。
フレッドの話を逸らせたし。について考えたりうっかり見つめてしまったりしないで済むように、上手いこと気が逸れたもんだから。



そしてまた、僕はなにも気付かないまま時間を過ごした。





2010.08.25 三笠