04



どうしてだろう。酷く苛立った。
苛立ったというよりむかむかしたというかもやもやしたというか、とにかく胃の中がひっくり返ったみたいにぐちゃぐちゃしてて、どうにも平静ではいられなかった。
ただ、同じグリフィンドール生なだけなのに。一度きりしか話したことのない女なのに。どうしてこんなに気になるんだろう。


―――2時間前


フィルチに言いつけられた掃除の罰則が終わり、俺たちはようやく解放された。
全く、ちょっとピーブズを唆してシャンデリアを落とさせただけだっていうのに。タイミングが悪かった。運も悪かった。今回は実行犯じゃないっていうのに、フィルチなんかに見つかるなんて。
とにかく、“魔法を使っちゃいけない”なんてふざけた条件つきのトイレ掃除をなんとか終わらせて、僕とフレッドはよろよろと廊下を歩いていた。


「ふー、やっと終わったな。さて!この後はどうする?」
「そうだな…。部屋に戻ってハロウィンの作戦でも立てるか!」
「賛成! …って、あれ? なあ、ジョージ。あそこに見えるのは嬢じゃないか?」
「は?」


フレッドの口から「」の名前が出てきたことにも驚いたが、がすぐ近くにいるってことにも驚いた。
いや、同じホグワーツの同じ寮に住んでいるんだから、いてもおかしくはないけど。
フレッドの指差す方向に視線を向けると、すぐにあの黒髪が目に入った。自然と僕の視線は、その横にいる人物に向かう。


「…隣のやつ、誰だ、あれ? 東洋人だよな?」
「うーむ…、後姿だと何とも…。しかし、あんまり見たことない奴だな。レイブンクローか?ハッフルパフか?」
「さあ…。グリフィンドールじゃないのは確かだろうな」


短く切りそろえられた黒髪、がっしりとした体型。身長は180cmといったところだろうか。あまり大きくないの隣に立つと、なんだか大きく見える。
隣で楽しそうに笑うの声が雑踏の中でもよく聴こえて、僕はなんだか気分が下降していくのが分かった。
気分が落ち込むだけじゃない、なんだかむかむかもやもやして、気分が悪い。
僕の知らないがそこにいて、楽しげに男と話している。
たったそれだけなのに、どうしてここまで気分が変わってしまうのか。僕は不思議に思いながらも、胃の中がひっくり返ったみたいに気分が下降していくのを感じていた。


「おい兄弟。どうしたんだ? 酷い顔だぞ」
「は? そんなことないだろ」
「いーや、そんなことあるさ。ちょっと落ち着けよ、ただの誤解かもしれないだろ」
「誤解? 僕がなにを誤解してるって言うんだ」


フレッドの言葉にも少し苛立った。
なんでそんなことを言うのか理解できなかったし、すべて分かりきっているような台詞がちょっと気にかかったからだ。


「あれがの彼氏なんて証拠はどこにもないだろ」
「僕は別にそんなこと気にしてないよ」
「いーや、気にしてる。最近のお前はいつもそうだ」


いやに自信満々にフレッドが言うから、僕は首を傾げた。
そんなこと言われても、最近の僕は何が“いつもそう”なんだ、と思う。そう言い返したら、フレッドは当たり前のように、さらりと言い放った。


「おまえ、のことが好きなんだろ?」


ぷつり、と時が止まったような気がした。

そして、フレッドの言葉を理解してすぐに、一気に顔が熱くなるのを感じた。


(そうか、だから僕は、)


赤い顔を隠しながら、そう思った。今までの不可解な感情を全部納得できた。それと同時に恥ずかしくなって不安になって、とにかく何がなんだかわからなくなった。この感情のナマエも意味もとっくに知識として知っていたはずなのに、どうしてこんなにも僕はなにもわからない子供みたいに戸惑って馬鹿やって混乱して、ああ――とにかく空回りしているんだろう。
そう思った。

の楽しげな背中を見つめながら。
僕は少しの間、立ち尽くした。




2010.08.27 三笠