―――あれからすぐ、僕とフレッドはホグワーツに戻ってきた。 部屋に戻って、新作の悪戯道具をいじる事もせず、僕は自室に引きこもった。 未だに顔が熱い。 フレッドに言われて初めて気がついたなんて、なんて情けないんだろう。 同じ顔した兄弟の、呆れた顔を思い出す。盛大にため息をついて、「おいおい。まさか気付いてないと思ってたのか?最近のお前のおかしさって言ったら分かりやすくて笑いが溢れ出すくらいだ。いや、失礼。あまりに微笑ましくて何度背中を押してやろうと思ったことか分かるか?いや、分からなくてもいい。とにかくだ。僕が独自に調べたところ、に彼氏らしい彼氏はいない。定期的に文通していたり特別に仲良くしたりしている男はいないと同室の女の子にアンジェリーナが確かめたから、確実だ。それでだ、兄弟。僕が思うに――」なんて息もつかずに話し始めたから、奴は相当この話題に踏み込むのを我慢していたのだろう。しかし、僕は見知らぬ男と楽しげに話していたの姿が未だに目の裏にべったりとガムみたくしつこく張り付いているようで、頭から離れてくれそうにない。そんな状態でフレッドの話に付き合えるとは思えなかった。 「悪い、フレッド。暫く一人にしてくれ」 「…まったく、仕方ないな。じゃあ、談話室でリーと次の悪戯について話してるから、気が向いたら来いよ」 「ああ、わかった」 パタン、とドアを閉める音が聴こえて、僕はベッドに突っ伏した。 そして、はあと深くため息をついた。僕が恋するなんて思ってもいなかった。それも、殆ど話した事すらない女の子に、だ。 これからどうしたらいいのだろう。少しでいい、彼女と話してみたかった。 あの黒い髪に触れてみたかった。見るからにしなやかで、癖がなく、指に絡ませて遊んでみたいと思った。 そんなことを考えていたら、いかに自分が彼女に飢えているのかわかった。 好きだと自覚した瞬間に、彼女になにを求めているのか分かりだした。 そんなこと、叶うはずないのになあと、ぼんやりと考えていたら、部屋に繋がる階段からばたばたと音が聴こえてきた。どうやらこの部屋に向かっているようで、すぐに扉が勢いよく開いた。 そこから見えたのは、僕と同じ顔――ついさっき部屋を出たばかりの、フレッドだった。 「ジョージ、ちょっと降りて来いよ」 「は? おま、さっきの今で何言っ…」 「いいから!とアンジェリーナが喋ってるんだ。話しかけるチャンスだぞ」 そう言われて、情けないが少し気になった。 けど、すぐに気を良くしてフレッドについていくのもなんだか癪で、渋々といった風を装いながら、ベッドから上半身を起こした。 「話しかけろって言われてもな」 「お前、そんなこと言ってたらいつまで経ってもと付き合えないぞ」 「余計なお世話だって」 ほら、とフレッドが手を差し出してくるから、僕はそれに手を伸ばした。その手を掴んで思い切り引っ張るから、それに乗って僕は身体を起こす。 漸く立ち上がった僕の手を離し、「ほら、行くぞ」と言うフレッドの後を、ゆっくりと追いかける。 正直なところ、見かけとは裏腹に、僕は大分パニクっていた。 となにを話していいのか分からないし、どんな態度をとればいいのかわからない。 まず、彼女とは殆ど喋ったことがないのだから、彼女がどんな風に話すのかすらわからない。(彼女が親しい友人と話すところを何度も見ているけど、僕に対してどんな風な態度をとるのかは、全く分からない) ああもうどうしたらいいんだ。 階段をフレッドに続いて駆け下りながら、僕の思考は終わりのない迷路に迷い込んだようにごちゃごちゃになっていた。 2010.08.27 三笠 |