「なあ、アンジェリーナ!今朝言ってたクィディッチの雑誌、今ある?」 「あら、フレッド。それならさっき、アリシアに貸しちゃったわよ」 アンジェリーナは、との会話を中断させてこちらに視線を送った。 それを見て、こちらに背を向けていたもこちらを振り返るから、僕の心臓は壊れたようにどくどくと音を立てた。 「えー、アリシアが先かよ」 「文句言わないでよ。本当にさっきだから、まだ部屋にいると思うけど…、どうする?先に貸してもらうように訊いてみようか?」 「いや、そしたら僕が文句言われるし。返ってきたら声かけてよ」 「はいはい、わかったわよ」 そんな会話をしている2人を後ろで見ていたら、フレッドが肘をこちらに突き出して突いてきたから、なんだと思って睨んでやった。そしたら睨み返されて、意味ありげに喉をの方へ向けたから、おま、と思わず声を出してしまった。 「え、なに?どうしたの、2人とも」 「や、なんでもねーよ。あ、そういえばアンジェリーナ。ウッドから次の練習について伝言あったんだっけ」 「? ウッドから? なあに?」 「まあ、ここじゃ何だから、あっちで話そうぜ」 そう言ってフレッドは、アンジェリーナの肩に手を乗せて談話室の奥の席を指差した。 それに圧されながらも、アンジェリーナは意味が分からないとでも言うように首を傾げつつ、さらにフレッドに文句を言う。でも彼女自身満更でもないようで、言葉とは裏腹に声にとげがない。 「ちょっとフレッド。私はと話してたのよ」 「おっと、それは失敬。嬢、少しだけアンジェリーナをお借りしてもよろしいでしょうか?」 「いいけど…。私は別に急ぎの話をしてたわけじゃないから、先に部屋に戻っ」 「いやいや、それには及びません。僕がアンジェリーナと話してる間、ジョージが君の相手をするから」 「は!?」 フレッドはいとも簡単にに話しかけていて、はいつもどおり普通に受け答えていて、ああなんて言えばいいんだろう。とにかく普通に話しかけることすらできない僕はどうしたらいいんだろうとか、ああでもって確かに地味だけどやっぱりちょっと可愛いなあとかぽかんとした表情は珍しいなあそんでやっぱりちょっと可愛いなあとか考えていたところで、僕の名前が出たから思わずびっくりして声を上げてしまった。 しまった、と思ったのも束の間で、思い切りフレッドに睨まれた。 そしては眉を顰めて怪訝そうな顔をしながら首をかしげた。きっと「なんで私が彼と話すことになってるの?」とか、そんな感じだ。 そんなの僕が聞きたいくらいだよ。 「じゃ、お2人さん。ちょっと失礼」 「お、おい、フレッド」 いいから座れよ、とでも言うように、ジョージは僕の腕を引っ張って、の前のソファに座らせた。 と1対1で話すのは多分初めてで、どうにも緊張して顔が見れなかった。 何を話せばいいのかわからないのは、多分も同じようで、フレッドとアンジェリーナがいなくなって少しの間はなにも話すことなく、沈黙が2人の間を支配していた。 「あ、あの。ジョージ、くん?」 「えっ、な、なに?」 「え、えっと…、なんか、ジョージくんに無理に相手させちゃってるみたいだし、もしあの、あれだったら、」 私、部屋に戻ってようか? そんな言葉が紡がれるのだろうと気付いたとき、いつも悪戯をしているときにはすんなり出てくるはずの都合の良い言葉がなにひとつ浮かばなかった。 なんて言ったら引き止められるのだろうか。そう考えるけど、マシな答えはなにひとつ浮かばず、情けないけどぐだぐだな言い訳を口にした。 「あ、いや。ここで君を帰したら、僕、フレッドになに言われるかわかんないし…。できたら、もうちょっと此処にいてもらいたいんだけど…」 「そ、そっか。うん、わかった、ごめんね」 「元々は急に来たフレッドが悪いんだし。こっちこそ、なんか気を遣わせちゃって、ごめん」 レンアイ初心者のガキじゃないのに、なんでこんなに下手な会話をしてるんだろう、と思う。 なんて言えば好いてもらえるんだろう、そう思って頭はフル回転なのに、いい台詞は浮かばない。 でも、そんなことを考えながら頭の半分は、の視線が時折僕に向かうことや今までにない至近距離での会話に緊張と高揚でいっぱいになっていた。 「(えっと…、)く、クィディッチの練習は、どう?」 「(!)えっ、た、楽しいよ」 「そ、そっか」 「あ、ああ、楽しい、」 な に を や っ て い る ん だ 僕は! 折角から話しかけてくれたっていうのに、一言で済ましてしまうなんて、ほんとバカじゃないのか僕は。 もなんだか俯いてそわそわしている。きっと、アンジェリーナが早く戻ってこないかって思ってるんだ。 僕自身は、戻ってきて欲しいような戻ってきて欲しくないような、複雑な気持ちだった。 これ以上ヘマをする前に切り上げたいとも思うけど、でももっといろいろ喋って、せめてマトモな会話ができるように進歩したいとも思う。 ごくりと唾を思い切り飲み込んで、今度は僕から口を開いた。 「は、クィディッチ、好きなの?」 「えっ…、うん。学校の試合は全部観てるよ。確か、ウィーズリーくんたちのお兄さんもグリフィンドールのシーカーだったよね?」 「ああ、うん。チャーリーはすごい選手なんだ。プロからのスカウトも来てたし」 そういう家系なのかな、とは笑った。 そうかもしれない、と僕は言って。それから、会話の種になってくれたチャーリーを少しだけ拝みたくなった。ああでも、にも知ってもらえてるなんて、ムカつくけどすごく羨ましい。やっぱり拝むのはやめた。 「フレッドくんと、じょ、ジョージくん、いつも息ぴったりだよね。遠くから見てるとよく分かるの。まるでお互いの動きがわかるみたい」 「わかるよ」 「えっ、」 「や、なんとなくは分かるって。まぁ、アイツならこのくらいやれるかな、って程度は」 驚いたように目を見開いたを見て、思わず噴出した。 すると、は見る見るうちに顔を真っ赤にして、俯いた。 「ぶっ…はは、ごめ、失礼…っ、そ、そんなに不思議?(やべ、可愛い。笑いがとまらない)」 「う。そ、そんなに笑わなくても…っ で、でも、だって、そんな、お互いの動きが分かるなんて、そんな、魔法みたいな」 「魔法だよ」 また、の口が「え、」と形作った。 くすりと笑いを零しながら、僕は言葉を続ける。 「双子だからね。生まれながらにそういう魔法がかかっているのさ」 「! そ、そう、なんだ」 半分くらいは冗談で、残りの半分は本気だった。 おどおどと話すはやはり可愛くて。少しくらいならくさい台詞も今なら言えるかなあと思った。 ずっと話しているとやっぱり少し慣れるもので、いつのまにか他の女の子と話すときのように少しの余裕は生まれていた。(けどやっぱり他とは比べ物にならないくらいに緊張するし照れるしいつ地雷踏むかと思うとこわいし、とにかく緊張するんだけど) 「いつか、」 「うん?」 「君も、僕に魔法をかけてよ」 「え? なんの魔法? 授業で習った魔法?」 「いや。――君の事をたくさん知れる魔法」 そう口に出したら、の顔は一気に赤くなって俯いた。ひょっこり覗いた耳まで朱色で、言葉にならない声をぼそぼそと口にしていた。 まさかこんなに可愛い反応が得られるなんて思っていなくて、心臓が異常なくらいどくどくと音を立てていながらも、僕は表情が緩むのがわかった。 「ジョージ、話終わったぞ」 「あら、。そんなに顔を赤くしちゃって、どうしたの?」 にやにやと腑抜けた顔をしたフレッドがアンジェリーナと一緒に戻ってきた。僕はゆっくりと立ち上がって、じゃあ、と言った。は、「うん、また」と小さく呟いた。視線はうろついて、赤くなった顔を隠しながらのそんな言葉である。思わず、口元が緩むのが分かった。 アンジェリーナは僕の座っていたソファに座りなおして、僕たちを見上げる。 「じゃあ、2人とも。僕たち部屋に戻るから」 「ええ、伝言ありがとう。また話しましょう」 「ああ、また」 「またね」 そんな適当な会話をして、僕たちは部屋に戻った。 僕はとこんなに長く(と言っても5分やそこらの話だが)話すことができた喜びと、可愛い反応をたくさん見れた興奮とで浮き足立っていて、階段を勢いよく駆け上がった。 (フレッドには、「おまえ、幸せそうな顔してんな」とにやにや笑われたけど) (こんなに幸せなあたたかいきもちになったのは、生まれて初めてだった) 2010.08.28 三笠 |