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それから、一月が経った。

僕とフレッドにとって絶好の悪戯日和であるハロウィーンが間近に迫っていて、僕たちは毎日忙しく過ごしていた。
今年はどんな悪戯をしてやろうか。ビーブスをけしかけてやるのも面白いけど、花火をたくさん放つのも楽しいだろうし、もっと他に楽しいことはありそうだ。
そんなことを考えて、花火や他の発明をしている間に、時間は矢のように過ぎていった。
とは、時折会って話すけど、特別な進展はない。(強いて言えば、照れずに名前を呼び捨てにしてくれるようになったくらいかな。とは言えこれは素直に嬉しい)


「そういえばジョージ、ハロウィーンの衣装はどうする?」
「あ!…そこまで考えてなかったな」
「だろ? 一応こんなのを用意してみたけど」
「うん?」


フレッドの用意した衣装を見て、にやりと笑みを浮かべる。(きっと)同じような顔をしたフレッドと顔を見合わせた。


「じゃあ、文句ないな?」
「ああ。これで後は、大量の花火を作るだけだな」




ハロウィーン当日。
朝から御馳走の匂いが城中に漂っていた。起きて準備をした後、僕とフレッドは一緒に、勢いよく談話室への階段を降りていった。


「「おはよう諸君!Trick or Treat!」」


既にたくさんのグリフィンドール生で溢れていた談話室に響いた声。
全員の視線がこちらに向くのとほぼ同時に、僕たちは息を合わせ、花火を放り投げた。
浮遊術をかけたそれらは天井に向かって綺麗に舞い上がり、火花を散らす。
悲鳴と歓声とが入り混じって談話室は一時騒然となり、僕とフレッドはハイタッチをした。


「あの花火は成功だな!だがもっと迫力と機動力を追加して」
「ああ、まだまだ改良の余地有り、だ」


そんな会話をしてから、談話室を駆け抜けた。
称賛の声とちょっぴり批難の声(もちろんこれは我らが兄貴のパーシーさ)に囲まれ、ポケットや腕にたくさんのお菓子を入れて貰いながら、歓声の中で足早に談話室を出ていった。
まだまだ、ハロウィーンは始まったばかりだ。やりたいことだらけなんだから時間はいくらあっても足りない。
お菓子を鞄に突っ込んで、僕等は今日の計画を(誰にも聴かれないように)話しながら、ゆっくりと大広間へと向かった。


「そういえば、だ」
「なんだよフレッド。なにか忘れていたことがあったか?」
「ああもちろんさ、お前にとって非常に大事なことだ」


そうにやついた顔で言われたら、嫌でもわかる。両手を上げて、顔を横に振って視線を逸らした。ハロウィーンの飾りで埋め尽くされた大広間はいつになく賑やかだ。


のことだろ。おまえに言われるまでもないさ」
「今日会う予定はあるのか?」
「ないよ。今日は忙しいし。もし時間が出来たら偉大なる先輩方にお世話になろうとは思ってるけど」


ポケットに忍ばせた古い羊皮紙に触れながらそう言ったら、フレッドは分かりやすくため息をついた。


「そんなこと言ってたらいつまで経っても会いに行けないだろ。夕飯前までには行っておけよな。パーティーが始まったらそんな暇ないんだからさ」
「…わかったよ。まったく、お前もお節介だよな」
「愛しい兄弟のためだからな」


フレッドに背中を押されながら、僕等は駆け足で大広間へ走って行った。
ああ、ハロウィーンはまだ始まったばかりだ。時間はまだまだ、たっぷりある。




2010.09.30 三笠