まだどきどきが止まらない。 立ち去ったときの背中が、なびく赤い髪が、まだはっきりと覚えてる。 ぎゅっと強く抱きしめられた感覚が、押さえられた後頭部や背中に残ってる。ポケットにはさっきまでにはなかった重み。キャンディーにビスケット、ガムにチョコ。見たことがあるパッケージで、ハニーデュークスのそれだと分かる。 はあ、と息をもらすと、予想外に熱を持っていて、空気を白く濁らせてすぐに消えていった。耳元で囁かれた言葉。私の、名前。ただそれだけだったのに、心臓は高鳴って落ち着きそうにない。 「ジョージ…」 呟いた彼の名前。そういえば、名前で呼ばれたのは初めてだったなあなんて思った。彼は名前で呼ぶように言っていたけど、彼自身は私のことを名字で呼ぶ。なんだか変な感じ。そう思ったのは彼には内緒のおはなし。 マフラーを編みたくていろいろうろついていたけれど、どうにも集中できそうにない。元の道を戻りながら、彼の顔を何度か思い浮かべた。 いつの間にか夕食の時間になっていて、ルームメイトと一緒に広間へ向かう。今日はハロウィンだから、いつもよりもずっとずっと豪華な料理。それに広間全体が綺麗に飾り付けられていて、きらきらと輝いている。それなのに、目に付いたのはジョージ・ウィーズリー。ああまたフレッドくんとなにやらこそこそ話しているなあなんて考えて。そして先ほどの出来事を思い出してまた心臓が高鳴る。きっと挙動不審。はあ、と吐いた息はとても熱かった。 たくさん食べてたくさんお喋りしたはずなのに、覚えているのは時折視線を向けた彼のことばかり。ああもう私、なんでこんなことばっかり考えているの。 ローストビーフを一口、口に含んだ途端、ばたんと騒々しく広間の扉が開いた。視線をそちらへ向けると、臆病者のクィエル先生が飛び込んできた。皆が視線を向けるうちに、ダンブルドア校長先生の前に辿りついた。 「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」 先生が息絶え絶えに言ったそんな台詞。言った途端にクィエル先生は倒れてしまって、その瞬間に生徒たちは叫んで騒いでごった返し。食事どころでは無くなってしまい、みんなどうしたらいいのか分からなくなって大混乱になってしまった。私も周りをきょろきょろと見渡して、ダンブルドア校長先生に視線を向けた。 その直後、校長先生は杖を上に向けた。杖の先からは紫色の爆竹が何度か爆発し、その音でみんな静かになった。 「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように」 沈静した広場に、校長先生の声がよく響いた。 その言葉を聞いて、各寮の監督生が立ち上がって声を出し始めた。グリフィンドールでは、監督生の一人であるパーシー・ウィーズリーさんが立ち上がって生き生きとしながら声を上げた。 「僕について来て!一年生はみんな一緒に固まって!僕の言うとおりにしていれば、トロールは恐るるに足りず!さあ、僕の後ろについて離れないで!道を開けてくれ。一年生を通してくれ!道を開けて。僕は監督生です!」 一年生からぞろぞろとパーシーさんに続いて歩いていく。 下級生から段々と退室していくから、私の順番はもうちょっと先。ルームメイトの友人と小さな声で話しながら、3年生の番を待った。 2010.12.14 三笠 |