14
朝起きて。着替えながら鏡を見て。
未だに耳が動物のままだったことにびっくりして、焦って急いで支度して、耳を隠しながら、マダム・ポンフリーのいる医務室に走った。


「まあまあ!これはどういうことですか!何をしてこうなったんです!?」


朝一番のお叱りの声は頭に響く。
なにやらカチャカチャと薬の瓶をいじっていたから、治らないものではないのだろう。もし戻らなかったらどうしよう。そう思ってたから、ふっと身体の力が抜けた。安心した。そして、どうやって説明すべきかと悩んだ。(だって、折角あんなに楽しませてくれた二人のことは言えないし)


「え、えっと…」
「昨日はハロウィンでしたからね!!どうせいつもの双子の悪戯でしょう!こんな魔法を思いつくのはあの二人くらいなもんです!!」
「あ、あはは…」


さすがマダム。いや、さすがジョージとフレッド、というところだろうか。
憤慨しながらもマダムはなにやらいくつかの薬品を混ぜていて、すぐに出来上がったのは、なにやら緑色の濁った液体。…え、まさかこれを飲めなんて言わないよね…?


「さあ、ミス・!元の体に戻る薬ができましたよ!これを飲めばすぐに治ります」
「は、はあ…。あの、ちなみに味の方は…」
「飲めば分かります!さあ早くお飲みなさい。一滴残らずですよ!そして飲んだら早く大広間にお行きなさい。朝食に遅れますよ!!」


そう言われて、うっと息を飲んで、もう一度薬と向き合う。匂いはなにやら、魔法薬の教室のような苦々しい匂い。スネイプ教授のあの顔を思い出して、この薬への嫌悪感が増した。
一度深く息を飲んで、それを口に運んだ。喉をどろどろとした薬品が通っていく。苦みが口いっぱいに広がって、すぐに吐き出しそうになったけど、半泣きになりながら嘔吐感を飲みこんで、最後の一滴までそれを飲み干した。
途端、頭がぐらぐらとして、熱が体中を駆け巡っていくのを感じた。細胞が動き出すような作りかえられていくような、耳が、頭がもぞもそして変な感じ。身体の表面が波打つような感覚のあと、ふっと奇妙な感覚は消え去った。はあ、と息を洩らし、コップをテーブルに置いた。医務室の鏡を見ると、茶色の毛で覆われた動物の耳じゃなく、元の人間の耳に戻っていた。
ほっと、安心した。(このままだったらどうしよう、って思ってたから)


「戻りましたか?よろしい!さっさと食堂にお行きなさい」
「あ、あの…よろしければ水を一口…」
「あらこれは失礼。相当苦くてまずくて口の中が溶けそうになる味だったでしょう。はいどうぞ」
「ありがとうございます…」


舌が緑色に染まっていて気色悪かった。急いで水を飲むと口の中の苦みが消えていった。まだ正常とは言えないけど、だいぶ、うん、口の中もすっきりした。


!まだ耳が戻らないってほんと!?」


ばたばたと騒がしい音を立てて、ジョージとフレッドが医務室に飛び込んできた。それを見て、マダム・ポンフリーは真っ赤な顔をして、キーキー声で叫んだ。


「ウィーズリー!医務室では静かになさい!!それと、ミス・は既に元に戻りました!!よって、早々に立ち去りなさい!」
「えっほんとですか、マダム!」
「本当です。まったく、魔法は精神や身体の状況によっても効果は変わるんですから、今後むやみやたらにこんなことをするのはやめるんですよ!!」


コップを洗って医務室の出口の方へ歩くと、ジョージとフレッドと目が合った。
顔を見合わせて、そして二人はほっと息をついて顔を綻ばせた。



(良かった、ちゃんと元に戻って)
(そーだな。お前、に嫌われずにすんだな)
(!!! フレッド!!)
(おっと、失言だったか)



2010.01.31 三笠