18
すべてを話し終えて小さく息をつく。
私は少し落ち着いたけれど、アリスはなんて言うだろう。
そっとアリスの顔を見上げた。


「なにも心配することなんてないわよ」


やわらかな笑みを浮かべ、アリスはそう言った。
彼女の白い手が、私の頭に触れて、優しく撫でてくれる。それだけで、なんだか充足感に包まれているようだった。


「なにも心配することなんてないの。あなたの感情におかしいことなんてないんだもの」
「で、でも。私、ジョージとアンジーが一緒にいるだけでなんか、僻んじゃって。そんなの、おかしいでしょ…」
「おかしくないわよ。だってあなた、ジョージのことが好きなんでしょ?」


さらり、とアリスは当たり前のように言い放つ。
『ジョージのこと好きなんでしょ』その台詞が脳内で何度も繰り返されて、え、え、と驚きと戸惑いでいっぱいになって、そして一気に顔が熱くなる。
ジョージとの会話が、仕草が、表情が、一瞬で流れるように思い出された。うそ、だ。そんなことない。だって、まだ話すようになってそんなに経ってない、し。


「と、友達として、って意味だよね」
「恋愛感情でしょう?」
「恋愛って、そんな…、えっと、だって、そんな、そんなこと、考えたことない、し…!」


どきどきどきどき。
心臓が高鳴る。どうしよう、顔も身体もみんな熱い。この熱はどこからくるんだろう。心臓がばくばく音を立てる。蒸気機関車だったら絶対煙をたくさん出して凄い速さで走ってる。ああ、もう。どくんどくん、血が巡る。熱い。苦しい。苦しい。息ができない。


「なっ、なんで、その、好きだって、わかるの」
「見ていればわかるわ。あなた、彼をとられたくないんでしょう」
「とられたくない、なんて…。ジョージにとっては、私なんかただの女友達、だし…」
「そんなの、いくらでも変えられるわ」


ぎゅっと、心臓に手を当てた。どくん、どくん、異常なくらいに早く動いている。
男友達だって数えるほどしかいない。ジョージと出会って話すようになったのは、たったの2ヶ月前からだ。それなのに、こんなことになるなんて、と。いくら考えたって答えなんて出ない。いつからなのか、どうしてなのか。
でも、『好き』を否定することはできなかった。だって、私の心が、身体が、私の全てが、訴えてる。  あのひとが、すきだって。


「苦しいのも挙動不審なのも、全部、ジョージ・ウィーズリーに関わってるんでしょう」
「………うん」
「認めたくないなら、認めなければいいわ。でもね、恋は理性でするものじゃないの。本能でするものなのよ」


だから時間なんて関係ないのよ、とアリスは続けた。
ジョージとアンジーの姿を思い浮かべたら、胸がきゅっと締め付けられるようだった。2人がそういう関係じゃないっていうことは知ってる。それなのに疑ってしまう。2人とも好きなのに、2人が仲良くしているのを見たら、じっとしていられなくなった。
痛い。苦しい。こんな想いをしたのは、初めてだ。
搾り出すような、掠れた声で、口を開いた。


「恋愛って、こんなに痛いものなの…?」

「本当の恋はね。苦しくって甘くてせつないものなのよ」


アリスは優しい笑みを浮かべて、私を抱きしめた。
彼女にしがみつきながら私は、ジョージの顔を思い浮かべていた。
ああ、そっか。苦しいのも甘いのもせつないのも、ぜんぶ、彼が好きだから、なんだ。

納得して、そして恥ずかしくなって。不安になって。
そして吐いた息は、先程よりも熱を持っていた。



2010.02.15 三笠