すべてを話し終えて小さく息をつく。 私は少し落ち着いたけれど、アリスはなんて言うだろう。 そっとアリスの顔を見上げた。 「なにも心配することなんてないわよ」 やわらかな笑みを浮かべ、アリスはそう言った。 彼女の白い手が、私の頭に触れて、優しく撫でてくれる。それだけで、なんだか充足感に包まれているようだった。 「なにも心配することなんてないの。あなたの感情におかしいことなんてないんだもの」 「で、でも。私、ジョージとアンジーが一緒にいるだけでなんか、僻んじゃって。そんなの、おかしいでしょ…」 「おかしくないわよ。だってあなた、ジョージのことが好きなんでしょ?」 さらり、とアリスは当たり前のように言い放つ。 『ジョージのこと好きなんでしょ』その台詞が脳内で何度も繰り返されて、え、え、と驚きと戸惑いでいっぱいになって、そして一気に顔が熱くなる。 ジョージとの会話が、仕草が、表情が、一瞬で流れるように思い出された。うそ、だ。そんなことない。だって、まだ話すようになってそんなに経ってない、し。 「と、友達として、って意味だよね」 「恋愛感情でしょう?」 「恋愛って、そんな…、えっと、だって、そんな、そんなこと、考えたことない、し…!」 どきどきどきどき。 心臓が高鳴る。どうしよう、顔も身体もみんな熱い。この熱はどこからくるんだろう。心臓がばくばく音を立てる。蒸気機関車だったら絶対煙をたくさん出して凄い速さで走ってる。ああ、もう。どくんどくん、血が巡る。熱い。苦しい。苦しい。息ができない。 「なっ、なんで、その、好きだって、わかるの」 「見ていればわかるわ。あなた、彼をとられたくないんでしょう」 「とられたくない、なんて…。ジョージにとっては、私なんかただの女友達、だし…」 「そんなの、いくらでも変えられるわ」 ぎゅっと、心臓に手を当てた。どくん、どくん、異常なくらいに早く動いている。 男友達だって数えるほどしかいない。ジョージと出会って話すようになったのは、たったの2ヶ月前からだ。それなのに、こんなことになるなんて、と。いくら考えたって答えなんて出ない。いつからなのか、どうしてなのか。 でも、『好き』を否定することはできなかった。だって、私の心が、身体が、私の全てが、訴えてる。 あのひとが、すきだって。 「苦しいのも挙動不審なのも、全部、ジョージ・ウィーズリーに関わってるんでしょう」 「………うん」 「認めたくないなら、認めなければいいわ。でもね、恋は理性でするものじゃないの。本能でするものなのよ」 だから時間なんて関係ないのよ、とアリスは続けた。 ジョージとアンジーの姿を思い浮かべたら、胸がきゅっと締め付けられるようだった。2人がそういう関係じゃないっていうことは知ってる。それなのに疑ってしまう。2人とも好きなのに、2人が仲良くしているのを見たら、じっとしていられなくなった。 痛い。苦しい。こんな想いをしたのは、初めてだ。 搾り出すような、掠れた声で、口を開いた。 「恋愛って、こんなに痛いものなの…?」 「本当の恋はね。苦しくって甘くてせつないものなのよ」 アリスは優しい笑みを浮かべて、私を抱きしめた。 彼女にしがみつきながら私は、ジョージの顔を思い浮かべていた。 ああ、そっか。苦しいのも甘いのもせつないのも、ぜんぶ、彼が好きだから、なんだ。 納得して、そして恥ずかしくなって。不安になって。 そして吐いた息は、先程よりも熱を持っていた。 2010.02.15 三笠 |