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「あれ、。どうしたんだい?」


図書室の片隅で、まず手招きされて近寄った。そして、非常に小さな声でフレッドくんに話しかけられた。図書室の番人であるマダム・ピンスに叱られないようにするためだ。
フレッドくんの向かい側の椅子に座る。テーブルの上には、先ほど教えた参考資料が何冊か重ねられていて、フレッドくんは羊皮紙に割合大きな文字で参考資料の中身を写しているところだった。


も何か宿題?それとも、誰かに用事だった?」
「えっ…、ううん。特になにかあったわけじゃないんだけど。今回の宿題難しいし、大丈夫かなって思って」
「! さすが。ジョージが気に入ってるだけのことはある」
「えっ」


嘘でない程度に適当なことを言って誤魔化そうとした。ううん、誤魔化した。そして、それに対するフレッドくんの言葉に、私は言葉を失った。
ジョージが私のことを気に入ってる、って。フレッドくんは、確かにそう言った。
気に入ってる、はイコール「好き」じゃないのは分かっているのに、心臓がぎゅっと小さくなって、鼓動が速くなった。ああ、ああ。なんて私は単純なんだろう。


? おーい、大丈夫か?顔赤いけど」
「えっ?え、あ、大丈夫!なんでもないのっ」


はは、と笑いながら、ちょっと大振りに否定したら、フレッドくんはなにやら嫌な感じの笑みを浮かべた。にやり、って感じの。ええと、なんて言うんだろう。悪戯を思いついたとき、みたいな顔。
そしてフレッドくんが口を開いてなにかを話そうとしたとき、カツン、カツン、と足音が近くで止まった。思わずそちらに振り返った瞬間、


「そこの2人、騒ぐのなら出ていきなさい!」
「やべっ…すみません!マダム・ピンス!」


慌ててフレッドくんに続いて私も頭を下げると、マダムは「次はありませんからね!」なんて言い残して元の席でまたギラギラと目を光らせ始めた。
私はフレッドくんと、ふうと小さく息を零して。そしてくすくすと小さく笑い合った。ああ、うん、なんか楽しい。


「ジョージならすぐ戻ってくると思うよ。参考資料探しに行っただけだから」
「え、」
「目的、ジョージのほうだろ?僕じゃなくて」


その言葉を聞いて、一瞬呆けた。
あれ、私そんな素振り見せたっけ。…ううん、私は2人を心配して来た、ってことにしたつもりなのに。
にやにやと笑みを浮かべたままのフレッドくんに、どう反応していいのかわかんなくなって、なにも言えないまま頭ではぐるぐるとそんなことを考えていた。
そして一言。ぼそりと、でも聴こえるように、フレッドくんは呟いた。


「僕、だったら妹にしてもいいと思ってるよ」


フレッドくんのその言葉の意味を理解するのに数秒かかって。
理解しきった瞬間、また顔がぼっと赤くなった。



(ああまさか。ばれてたなんて)

2011.03.06 三笠