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『僕、だったら妹にしてもいいと思ってるよ』


いきなりのフレッドくんのこの言葉に、私はひたすら混乱していた。
妹にしてもいいって、ええとつまり、じょ、ジョージと、け、結婚していいっていうあの、そういう意味だって思ってもいいのかな…!なんて思ったりして。
いやあの、でもまさかそんなことないよね。私が勝手にジョージのことを好きなだけで、ジョージの気持ちなんて一切なにも知らないっていうのにそんなこと言われてもどうしようもないというか心の準備がなにもできてなくてああもう混乱!パニック!
というか、もしかしたら「妹みたいに思ってる」っていう言葉をなにやらミステイクしたのかもしれないし。でもそれだったらこんなにごちゃごちゃ混乱してる私すっごく恥ずかしい人だよね!!ああもうどういうことなの。フレッドくんってばなにあの爆弾発言してるの。ああ、ああ。わからない!わからないよどうすればいいの。とぼけた振りして流せばいいの。それとも―――


「あれ、。どうして此処に居るの?」
「ひっ」
「しーっ 、しーっ」


人差し指を口に当てて、フレッドくんはそう言った。そして指差したのは、マダム・ピンス。ああ、うん。私はともかく2人が追い出されるのは困るもんね。
心臓がばくばくうるさくて、落ち着くなんてできなかったけど、それでも必死で声だけは押さえた。そして私が声を出した原因――ジョージ、が苦笑しながら隣に座った。驚きの所為か、それとも別の理由か、さきほどに続いて私の心臓は異常なスピードで駆けあがっていた。


「資料は?」
「とりあえずこの2冊くらいかな。…ていうか、2人ともなに話してたんだよ」
「まあ、それは置いといて」
「おい」


不満げなジョージを余所に、フレッドくんはジョージの持ってきた本を漁り始めた。ジョージは小さく息を吐いて、こちらを見た。まっすぐな視線にまた心臓が変な動きを始める。


も、なんか宿題残ってたの?それとも誰かに用事?」
「ぶっ」
「え、そうじゃない、けど…っ」


ジョージの言葉に思わず噴き出したフレッドくん。私もつられて笑いがこみあげてきて、必死で笑いを押し殺した。
なんで笑われたのか分からないであろうジョージは、フレッドくんを軽く睨んで「なんで笑うんだよ」なんて言っていた。
だって、だってジョージくんってばフレッドくんと全く同じことを言ってるんだもの。双子って凄い…!


「2人して同じこと言うから、つい」
「うわ、まじか…」
「何だ、不満なのかよ」
「いや。まー当然っちゃ当然かもとは思ってる」
「双子だからな」


はは、と笑うジョージに向かって、フレッドくんもにやりと笑みを浮かべた。
つられて私もくすくす笑った。
楽しい。嬉しい。幸せだと心から思った。
部屋を出る前は、前と同じように話せるかって、それだけが気がかりだったのに。そんなこと吹っ飛ぶくらい、すごく、楽しい。そして嬉しい。
そしてふと気付いた。食い入るような、睨むような視線。


「あ、じゃあ邪魔しちゃ悪いから、寮に戻るね」
「え。別にいいのに」
「ううん、順調そうで良かった。また後で」


手を振ってから背を向けると、こちらを見ていた人がわかった。
予想していた通り、司書のマダム・ピンスだった。
小さく会釈をしながら横を通り過ぎたけど、その際にも軽く睨まれた。いけない、いけない。もう少しで追い出されるところだった。

足音すらなるべく立てずに、私は図書館を出た。



2011.03.18 三笠