26


時が過ぎるのは早いもので。
気がついたら、明日はもうクィディッチの試合。
私はアリスと談話室で紅茶とクッキーをつまんでいた。


「ねえ。明日はクィディッチの試合だわ」
「…アリス、いきなりどうかしたの?」
「意中の彼に応援の一言でも言わないのかと思って」


ごほっ、と飲みかけていた紅茶で咽てしまった。持っていたハンカチで慌てて口元をぬぐい、ティーカップをテーブルに置く。
幸い、周りは騒がしく、誰も私たちのことなど気にしていない。
聞かれてなくてよかった、と安堵しつつ、アリスから出た言葉に心臓がうるさく騒ぎ出す。


「そのくらい出来なくちゃ、この先なにも進まないわよ」
「う…、わ、わかってるよ」
「分かってないわ。ジョージとどうにかなりたいなら、さっさと探しに行きなさい。たぶんまだ練習中だから、練習場の近くをうろついてたら会えるはずよ」
「え、」
「ほら、行きなさいって」



背中を押されて、半ば無理やり談話室を出て、そしてそのまま寮を出た。


練習場への廊下をゆっくり歩いているうちに、どんどん心臓がうるさくなっていった。廊下は寒いのに、吐いた息は熱を持っている。
なんて言えばいいんだろう。ぎゅうと心臓が締め付けられて痛い。

そんなとき、静かだった廊下で話し声が聞こえてきた。
グリフィンドールクィディッチチームのみんなだ。


「あら、。どうしたの、こんな場所で」
「あ、アンジー…」


最初に気づいたのはアンジェリーナだった。ぱたぱたと小走りでこちらに駆け寄ってくる。それにフレッドに、ジョージも、アンジーの後を追ってこちらに近寄ってくる。ほかの人とは殆ど面識が無いからこちらをちらりと見ただけだった。


「練習、どう?」
「バッチリよ!観てなさい、スリザリンなんかコテンパンにしてやるんだから!はこんなところでどうしたの?」


自信満々に、アンジーは言い放った。
その後ろにジョージとフレッドがいて、二人とも(よく見ればアンジーも)泥にまみれて汚れていた。


「じょ、ジョージに、」
「え、僕? なにかあったっけ?」


絞り出した声は小さくて、でもジョージまで届いていた。
不思議そうな顔をして首をかしげるジョージと裏腹に、何か分かったようにアンジーとフレッドは顔を見合わせた。そしてにやりと笑みを浮かべると、いきなりフレッドは声を出した。


「あーっ、そうだアンジェリーナ。魔法史のレポート見せてよ、分からないところがあるんだった」
「あら、そうなの?私も途中だけど、それでいいなら見せ合いっこしましょうよ」
「オーケー!…ということでジョージ。僕等は先に戻ってるけど、そんな遅くなるなよ!試合は明日なんだからなっ」
「ちょ、フレッ、」
「じゃあ。あとはよろしく頼むよ」
「え、フレッドくん…!?」


二人はばたばたと音を立てて、駆け足で去っていった。
残されたのは、私とジョージの二人だけ。なんだか気まずく、先ほどクィディッチチームが通り過ぎたときとは違って、廊下は静まりかえってしまった。

11月の冷たい空気が妙にリアルだった。



2011.07.20 三笠