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「…行っちゃった」
「そうだな…」


零れ落ちたのは、そんな言葉。
辺りは静かだけど、私の中で心臓がどんどん速度を上げている。こんなに静かだと、聞こえてしまわないか不安になるくらい。


「「………………」」


どうしよう。何を話せばいいんだろう。
ちらりとジョージを見上げたら、同じようにジョージもこちらを見下ろして、慌てて二人とも視線を逸らした。う、わ、目が、合っちゃった…っ。


「あ、えと、用、って」
「! う、うん、えっと、」


お互いに目を逸らしたまま、そんなことを口に出す。
そうだった、私から此処に来たんだった。明日はクィディッチの試合。こんな寒い場所で練習疲れのジョージをずっと付き合わせるわけにはいかない。
…とは思うんだけど、なかなか上手い言い方が見つからなくて、結局そのままの言葉が口から滑り落ちた。


「な、なんていうか、用とか、そういうんじゃなくって、…あの、ただ、明日応援してるって、言いたかっただけ、なんだけど…」


ああ、ああ。顔が熱い。マトモにジョージの顔が見られない。たぶん、今私の顔は真っ赤に染まっていて、ぎゅうと握り締めた手は汗ばんでいた。


「ごっ、ごめん!練習で疲れてるのに、あの、こんな理由で引き止めちゃって、」
、」


ジョージの声に、恐る恐る顔を上げた。そして見えたジョージの顔は、なんだか赤く火照っていて、右手で口元を覆っていた。


「やば…なんか、すっごい嬉しいんだけど…」


視線を逸らし気味に、ジョージはそう言った。
心臓がどんどん速度を上げていく。嬉しいし恥ずかしいし照れるしドキドキがとまらない。


「がん、がんば、って」
「ああ、が、頑張る、から。見てて」


うん、と声にならずに私はうなずいた。
ジョージは小さく笑みをこぼして、でもすぐに視線が少し空を泳いで、そして気まずそうに声を出した。


「あっ、あー…、あの、さ」
「え?」


あ、と思った。この感じ知ってる、と思った。
つい視線を逸らしてしまって、でもそれは嫌だからじゃなくて、意識しすぎてずっと見ていられなくて、でも見ていたくて。
それは私がずっとジョージに感じている感情。
気のせいかもしれない。勘違いかもしれない。けど、もしかして。
ジョージの顔を見ながら、そんなことを考えていた。


「グリフィンドールが勝ったら、さ。 …ご褒美、くれない?」
「え、ご褒美って、私大したもの渡せないけど…」
「す、少しだけでもいいから、」


少し早口で、まくし立てるようにそこまで言って。
小さく息を呑んで、少し躊躇って、それから、口を開いた。



「今度のホグズミード、一緒に行ってほしいんだ」




(耳を疑った。目も、脳も、これは夢じゃないかって、私に都合の良すぎる幻想じゃないかって)
(気づけば、私は小さく頷いていた)



2011.07.20 三笠