29


「ねえ、は部屋にいる?」


グリフィンドールVSスリザリンの試合が終わり、寮内では完全にお祭り騒ぎとなっていた。きっとグリフィンドール寮のほぼすべての人が集まっているのだろうと思えるくらい多くの人がごった返していて、もう隣の人の声も聴こえないような状態だ。
そんな中、僕はたくさんの人の賞賛や労いの言葉を聞き流しながら、を探していた。の友人は見つけたけど、自身が見つからない。僕はどうにか人波を掻き分けて、の友人に声をかけた。
いきなりの僕の登場に、彼女らはびっくりして目を大きく見開いた。


「あらウィーズリー。ならもう部屋に行って休んでるわよ」
「なんだか疲れてるみたいよ。最近あの子おかしいのよね。声をかけても上の空って感じの時が多くって。もう寝てるかもしれないけど、一応呼んでくるわね」
「ごめん、お願いするよ」


ぱたぱたと女子寮を上って行く彼女等を見送って、僕はその場で適当に腰掛けて待っていた。その間に何人かに話しかけられて、やれ今日の試合はどうだの、今年のクィディッチチームはどうだの、今年の寮対抗杯はいただきだの、という会話をした。正直なところ、僕はの様子が気になってなにひとつマトモに聞いていなかったけれども。

―――試合前、観客席にいる彼女を見つけたときから、いや、昨日彼女と話したときからずっと気分は高揚していた。今日勝てれば彼女とホグズミードへ行けると考えたら、心臓はうるさく騒ぎ立てるのは当たり前だろう。
けど、もしかしたらは違ったかもしれない、そう思い始めた。
試合はちゃんと観に来ていたし、そんなに体調は悪そうじゃなかった。それなのに今は部屋で休んでいる、と考えたら心配になるのは当たり前だ。
もしかしたら僕と会いたくないのかもしれない、一緒にホグズミードになんて行きたくないから。そう考えてしまうほど不安定な自分が嫌になる。

少し経って、さっきの彼女等と、確かアリス、とかいうの友達が降りてきた。


「ウィーズリー、申し訳ないけどってばもう部屋着に着替えちゃってるのよ。イベントごとは好きなんだけど、あんまり人が多いの得意じゃないから今日も早めに部屋に戻っちゃって。すごく申し訳なさそうだったわ」
「あ、そうなんだ。僕も約束してたわけじゃないから、いきなりごめんって伝えといて。君たちもごめん、ありがとう」
「いーえ、全然。それと、これから。返事聞いておいて、ってことだったわ」


アリスは半分に折った小さなメモを僕に渡した。広げると、らしい丁寧な字で数行の言葉が綴られていた。
『まず、今日の試合おめでとう。素晴らしかったわ。
 それと、今出られなくてごめんなさい。
 もし明日でもいいのなら、そのときお話しましょう。
 明日の朝でも夜でも、ジョージの都合に合わせます。
                    


「じゃあ、15時くらいに湖のほとりって伝えといて」
「15時に湖ね。了解」
「ああ、頼むよ」


そう言うと、アリスはじゃあと一言言って女子寮へと戻っていった。
僕もまた宴会に戻ろうと、フレッドのいる騒ぎの中心へと人波を潜り抜けていった。


(会えなかったのは残念だけど、明日確実に会えるから。それでいいと思った)



2011.8.19 三笠