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食事を終えて廊下を歩いていたら、後ろから声をかけられた。
栗毛の長い髪をそのままに靡かせる女の子、ハーマイオニー・グレンジャー。それに、短い黒髪に眼鏡の男の子。彼は魔法界でも非常に有名な、ハリー・ポッター。それにもう1人、燃えるような赤い髪にソバカスの目立つ顔。その特徴は、ジョージやフレッドくんによく似ている。


「あら
「え? あ、おはよう、ハーマイオニー。…と、もしかしてロナルド・ウィーズリー?」


それとハリー・ポッター。そう付け足すと、びっくりしたように3人は目を丸くした。そんなに私変なこと言ったかな。


「君、僕のこと知ってるの!?」
「たまにジョージからあなたのことを聞く程度よ。チェスが上手いって言ってたかな」
「おっどろきー…。ジョージのことだから、それ以外は僕の間抜けな話ばっかりだろう?」
「えっ、そ、そんなことないよ」


どうやらハリーよりも先にロンに話しかけたことにびっくりしたようで、ジョージから聞いたと言うなり、ハーマイオニーは納得したような顔をした。
ロンはそれでもちょっと嬉しそうに、話を続けた。


「えっと、それでキミは誰?僕、ジョージから女の子のことなんて聞いたことないや」
「私は。ジョージとフレッドくんみたいに有名じゃないし、ジョージと話すようになってまだ2ヶ月くらいだから、聞いたことないのも当然かも」


そう言うと、へえーと言いながらロンは私の顔をじろじろと見た。ひょろりと長い身長は、既に私と同じくらい。私の身長は低いほうだし、東洋人は西洋人よりも小柄な人が多いらしいから、すぐに抜き去ってしまうんだろうなあと思った。


「キミ、ジョージとフレッドの区別がつくんだね。まさかわざわざ名前を聞いてるわけじゃないだろうし」
「え?」
「ママだって時々間違えるんだよ。嘘もつくし、相当一緒にいないと2人の区別はつかないと思う」
「見かけは似ているけど、中身は全然違うわ」


ロンはにやりと笑みを浮かべた。私はそれを見たとき、あ、似てる、と。そう思った。フレッドとジョージと同じ顔だ。


「たとえば?」
「そうね…。どっちもどっちだけど、ジョージのほうがフレッドより周りのこと考えてる。フレッドのほうが大胆っていうか、先に立つタイプね」
「ワーオ。キミ、もしかしてジョージのファン? きっとママより詳しいよ」
「ちょっとロン!がジョージなんかにひっかかるわけないじゃない。ねえ、…」


ハーマイオニーが思いっきり否定をして、それから私に振り返った。
私は一気に顔が火照って、口を開いてなにか否定する言葉を紡ごうとした。それなのに、軽く頭が酸欠のようになって言葉が出てこない。ああどうしよう。これじゃあ否定できない。


「…あなた、まさか」


ハーマイオニーの呆れた声が遠く聴こえた。
私は片手を口元に当てて、なにかいい言葉を探した。それなのに零れた言葉は曖昧な言葉。


「………すきなんて、断言できるようなものじゃないわ」



(ふと、あの人の顔が頭に浮かんだ。くしゃりと、子供らしい太陽のような笑顔)



2011.08.21 三笠