15時に、湖のほとり。 そう約束したのに、私は14時半には既にそこにいた。 前と同じように、編み物をしながら、時折持ってきた紅茶を飲んで過ごす。 「やあ、」 「! じょ、ジョージ」 いきなり現れたジョージにびっくりして、思わず声が裏返った。ジョージはくすくすと笑いながら隣に座った。 11月の湖はひどく冷えるし、木々は落葉し、寂しげな光景だ。そのため、わざわざ此処に来る人は殆どいない。 「えっと…昨日はごめんなさい。探してくれたんでしょう?」 「ああ、構わないよ。疲れてたんだろ? 凄い騒ぎだったから、部屋にいてもうるさかったかもしれないけど」 「ううん、大丈夫。試合凄かったもんね。おめでとう。それと、…ありがとう」 最後にお礼を付け加えたら、ジョージは首をかしげた。私も、お礼を言うのはなにかおかしいかもしれない、とは思ったけれど。でも言いたかったから。つい、口をついて出てしまった。 「? なんかお礼言われることしたっけ?」 「え、っと…、ホグズミード。私も、その、一緒に行けたらいいなあって思ってたから」 そういったら、ジョージは目に見えて動揺した。 えっ、と声を出して目をまんまるくして。そして少しだけ頬を赤く染めた。 たぶん私も顔が赤い。こんなに大胆なことを言えると思ってなかった。 「じゃあ、一緒に、行ってくれるの?」 「…あの、本当に申し訳ないんだけど、午後からでもいい、かな。ずっと前から友達と一緒に行くって話してて。今から断りにくくって」 「全然!大丈夫、僕は全然構わないよ。じゃあ午後、13時くらいに…、そうだな…、多分何処も混んでるけど…」 お兄さんたちからいろいろ聞いているのか、ジョージはいくつかの店の名前を出してくれたけど、私には何一つ分からなかった。 ホグズミードは世界で唯一の魔法使いのみの住む街。その噂はよく聞くけれど、詳しくはよく知らない。 「店の名前を聞いても、たぶん場所がわからないわ…」 「オーケー。じゃあ郵便局の前にしよう。フクロウがたくさんいるからきっと分かるさ」 「うん。じゃあ、13時に郵便局の前ね」 確認まで終えると、急に何を話していいのか分からなくなった。 話すことが決まっていれば、すんなり話せるのに。 そっとジョージの顔を盗み見しようかと思ったら、偶然、ジョージも同じようにこちらを見て、慌てて2人で視線を逸らした。 どき、どき。何を話そうかと考えて、思い浮かんだのはたくさんあった。でも、どれもすごく、ものすごく情けなくて、私は言ってしまっていいのか、すごく、悩んで、その中でもたぶん一番マシなものを選んだ、つもり。 「ひ、ひとつ聴いてもいい?」 「なに?」 「あのとき、誰を見てたの」 「あのとき?」 ジョージは首を傾げてこちらを見た。顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて情けなかったけれど、私は続けた。 「試合の後。こっち見て、ガッツポーズ、してたよね…?」 「ああ、あのとき」 「うん、あのとき、誰のこと見てた…?」 見上げるようにしてジョージのことを見た。 「君の事見てた」 「え」 「のこと見てたよ。も手を振ってくれたから気付いてくれたのかと思ってたけど」 「! あ、えっと。こっちかな、って思ったけど、でも私じゃないかも、って思ったらちょっとあの、よくわかんなくなって」 そう言ったら、ジョージは一瞬きょとんとした顔をして、それからふっと笑った。私の小さな不安なんてすべて吹き飛ばしてしまいそうな、そんな明るい笑い声だった。 「はは。なんだ、そんなこと気にしてたの」 「そ、そんなことって!だって、違ったら」 「僕はちゃんとのこと見てたよ。今も、あのときも」 今も。その言葉にどきっとした。今、ジョージの目の前には私しかいないんだ、って思ったら、今更だけどその現実に緊張した。どきどきした。 「ねえ、僕もひとつ質問いいかな?」 「? うん、いいよ」 「このまま、」 ジョージから質問されるのはなんだか珍しい気がして、なにを聞かれるんだろうと思いながら頷く。 彼は笑みを浮かべながら口を開いた。 「このまま、夕飯まで一緒にいたい、って言ったら…迷惑、かな?」 (ああ、ああ、どうして断れるっていうんだろう) (私は一気に顔を赤く染めながら。何も言葉を紡げないまま首を振った) 2011.08.24 三笠 |