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バタービールを1杯ずつ飲んで、夕暮れ時になって二人でホグワーツに戻った。クリスマスプレゼントやお菓子など、たくさんの荷物を抱えて部屋に戻ると、待ち構えていたかのようにアリスとアンジーがそこにいた。


「やっと戻ってきたわね」
「えっと…、ただいま」
「おかえり。さて、いろいろと聞かせてもらいたいわ」


にやりと笑ったアリスの顔を見て思わず苦笑する。
絶対に訊かれるとは思っていたけれど、正直なところあまり言いたくないというか、できたら2人だけで共有したい時間だったけれども、全く何も話さずに終われるなんて思っていない。(けど、なるべく話さないに越したことはない)


「そんなに言うことないよ」
「あら、本当に?」
「ほんとほんと」
「じゃあ、その手首につけているのは何かしら」


良く言えば観察眼がある、悪く言えば目敏いアリスは、出発したときとは違うそれにあっさりと気がついた。
革製のブレスレットにいくつかのリングがついたそれは、先ほど買ったばかりの、ええと、ジョージからの、プレゼントだ。


「自分で買ったの」
「あらそう。あなたがジョージを待たせて自分の買い物に熱中できるような人間だと思ってなかったわ」
「ジョージはジョージで、自分の買い物をしていたもの」
「じゃあジョージはなにを買ったの?あなたのそれとお揃いのブレスレット?」
「…アリス、わかっているならそっとしておいてほしいんだけれど」
「少しでも私に相談したのなら、その結果を私に言うべきだと思わない?」


荷物を自分の机に広げて、それぞれをそれぞれの場所にしまっていく。
お菓子はお菓子のスペースに。文具は文具のスペースに。クリスマスプレゼントは机の奥にラッピングを崩さないようにしまい込んだ。


「ああもうわかったわ。言うわよ、言うけれどそれに関する質問にはお答えしないわ」
「あら、質問に答えないなんてそんなこと―――」


アンジーの言葉を遮って、記憶をたどりながら言葉を紡ぐ。
一通りかいつまんで、でもジョージとの会話なんかはまったく話さずに、事実だけを一気に話した。


「私はジョージと会って、ペットショップやクィディッチ専門店、雑貨屋、ハニーデュークス、ゾンコのいたずら専門店…ええとあとはどこに行ったっけ。その辺りをいろいろと眺めて買い物をして、そのあと3本の箒でバタービールを飲んで少しお話をして帰ってきたの。特に進展はなし。話す必要もなし。以上報告おわり。私はお風呂に入ってくるからあとは勝手にお話どうぞ」


息継ぎをせずにそんなことを言い切って、私は着替えを持ってお風呂へ向かった。ブレスレッドを見るたびに思わず笑みがこぼれて幸せな気持ちになれる。
全部を自分から話して聞かせるなんてできるはずがないと思ってた。ひとつひとつ全部の出来事にずーっとどきどきしていて緊張していてでも幸せで、思い返すだけで心臓がぎゅっと締めつけられるような気がしていた。
だから、言わない。ふたりの時間はふたりだけで共有していたい。
わがままかもしれないけど、それが今の本心だった。




「おやジョージ。おかえり。進展は?」
「ただいま、フレッド。それを言わなくてはならない理由はないと思うけど?」
「『双子だから』は理由にならないかい?」
「残念ながら僕はその理由ですべてを話すつもりは欠片もないよ」


紙袋いっぱいの荷物を机の上に投げ出した。
一応は軽く仕分けて、ちょっとぐちゃぐちゃになりながらも菓子や悪戯グッズを引出しにしまった。


「ということは言えない何かが起こったということで解釈するけど、それでいいかな?」
「…フレッドの中で僕らがどうなったのかはどうでもいいけど、それを広められたら困る」


フレッドが僕にとって不利益になることをやるとは思えないけど、やらないとは言い切れないので記憶をたどってどれを言うか考えてみる。
適当にごまかしてもいいけど、きっとバレるだろうから、仕方なく一番の進展を口にした。


「進展があるとしたらにブレスレットをプレゼントしたくらいさ」
「ブレスレット? もしかして、お前が今首から提げてるそれと何か関係があるのかな」
「さすがだな。大ありさ。同じ革で作ってもらった。これはがお金を払って、のは僕がお金を払った」
「つまりはプレゼント交換か。それなりの進歩だな。早く告白しちまえよ、兄弟」


抜かったなとは思うけど、と別れてから隠すのを忘れていた。
一番細く黒いチェーンに長方形の革が一つつけられたシンプルなネックレスが、今僕の首にかかっている。
まあどの道ばれていたとは思う。フレッドは、いや僕もそうだけど、周りよりも観察眼は鋭いから。


「そんなことができるならとっくにしてる。…告白はもっと先だろうさ。告白する勇気なんてないし、それが成功するとも思えない。今は友達のままでいい」
「ふうん。それは別にかまわないが、後で後悔するようなことはやめてくれよ」


弟の涙をぬぐってやる趣味は僕にはないのさ、フレッドはつぶやいた。
僕も、兄に涙をぬぐわれるなんてそんな情けないことにはしないさ、と言い返した。



(永遠に続けばいいのにと思った時間が終わって、充実感に包まれながら、先ほどまでの現実を思い返す。ああしあわせだ、と思わず笑った)


2012.7.10 三笠