ホグワーツは辺り一面雪に覆われ、放課後には多くの人が雪合戦や雪だるま作りなどをしていた。 私は、そういう遊びはあまりしないけれど、それでも雪は好きで、ふらりと外へ歩きに出ていた。 「はー」 完全防備でマフラーにイヤーマフ、一番分厚いコートを着てブーツも履いてきたけれど、それでもやっぱり寒い。 吐いた息が白くて、それもまたなんだか楽しくなってつい鼻歌を歌いながら歩く。 湖の水はとっくに凍っていた。普段見られない光景を目に焼き付ける。 「あれ、」 「えっ、あ、ジョージ…フレッドくん…」 少し後ろのほうから木の隙間を縫って、ジョージとフレッドくんが同じようなコートを着て、こちらに歩いてくる。 目隠しのように少し間を置いて植えられた木によって視界は限られているせいか、まったく気がつかなかった。 もしかして、鼻歌聴こえてたかなとか、こんなところを一人で散歩してて変な奴って思われてないかなとか、いろんなことが頭をよぎった。 「こんなとこで珍しいな。なにしてたの」 「さ、散歩…。動くのはあんまり得意じゃないんだけど、歩くだけなら楽しいし…」 「へえ、なんか面白いものあった?」 「見ての通り、特になし」なんてつまんない返事をして、視線をそっとジョージに向ける。 すると、思わず目が合って、どきっと心臓が一気に高鳴って顔をそらした。(たぶん、これはお互い同時に) こんな寒いのになんだか顔が熱くなって、それを見てフレッドくんはアリスと同じようなにやけた笑みを浮かべた。 「なあ、。この雪玉に魔法をかけて、誰かを追いかけさせたら面白くないか?」 「外に出ると必ず顔に雪玉が向かってくるとか」 「溶けるまで追いかけてくる雪だるま」 「入ると崩れるかまくら」 そのあとも楽しげに悪戯について語っていて、そしてどれも他人を巻き込んだもので、思わず苦笑した。 ああ楽しそうだな、と。私と二人きりだったら絶対しない表情を見て、私も笑った。 「おっ、譲のお気に召したものがあったみたいだぞ」 「え、どれ? 歩く人を次々と滑らす謎の手が」 「いや、やっぱりスネイプ狙いで研究室を雪で満たすのが」 「そ、それはやめたほうが。えっと、あんまりみんなに迷惑をかけない感じのが…いいんじゃないかと」 そう言うと、二人は苦笑いを浮かべた。 それだと悪戯として面白みに欠けるといったところだろう。それはわかる。わかるけど、もし悪戯される立場だったらちょっと困るなって、そう思う。 「じゃあ雪玉が追いかけてくるくらいかな」 「そうだな。そのくらいなら当たってもそんな被害はないし。魔法も簡単だ」 「う、うん。あんまり外にいると風邪ひいちゃうから悪戯もほどほどにね」 「ん、もな。バカな奴らが雪合戦してるから、それに当たって水浸し――なんて、間抜けなことにならないように気をつけて」 「…それ、あり得そうでやだな」 「ぷっ…、今僕も思った。器用に逃げるとか出来なさそう」 「で、できないとおもう…」 自分で想像してちょっと顔をしかめた。 絶対に近づかないようにしよう。近づかなくてもちょっと狙いを外れた玉に当たりそうだけど。 くつくつとジョージが笑っていて、いつまで笑ってるの、という思いを込めて軽く睨んでみたら「おっと」と一言言って笑いを止めていた。 隣でフレッドくんが微笑ましそうに眺めている。 「そういえばはクリスマス、どう過ごすの?」 「おじいちゃんがルーマニアに出張してて、私もそっちに行くつもりなの。お土産買ってくるよ」 「え? ルーマニア? うちも兄貴のチャーリーがルーマニアにいて、家族は向こうで過ごすんだ。俺たちホグワーツ組は此処に残るけど」 「あっ、知ってる。お兄さんはドラゴンの研究をしているんでしょ?おじいちゃんはその仕事の手伝いをしてるの」 アリスには言ったけど、二人には言ってなかったなあと思いながら話した。 すると二人は目をまんまるくして驚いていた。 「じゃあ、向こうではうちの家族に会うわけだ」 「…あっ、そうなるね」 「同じ赤毛だから、たぶんすぐ分かるよ。俺たちの悪戯関係については、言わない方向で」 「わかってるよ。もし何か聞かれても『とても面白くて人気者で、クィディッチでもすごく活躍しています』って答えるね」 「さすが!そんな感じで頼むよ」 拝むように言われて、くすくすと笑いながら私は頷いた。 きっと散々叱られてきたんだろうな。ホグワーツに入る前から悪戯好きで自由奔放で、かわいい子供だったんだろうな、と簡単に想像が出来た。 「あ、私はそろそろ戻るね」 「うん、気をつけて」 「ジョージ、送ってやれよ。俺はこの辺でどうやって雪玉に追いかけさせるか考えてるから」 「えっ、いいよ、大丈夫だって!そんな間抜けじゃないし」 「ン、あー…いや、送るよ。そんな時間かからないし」 嫌ならいいけど、と言われて、ぶんぶんと首を横に振った。 嫌じゃないよ。嫌じゃない。でも、迷惑だよ、と思った。それでも二人で話すのはやっぱり楽しくて、嬉しくて。ついそれに甘えてしまう。 「じゃあ、フレッド、すぐ戻るから」 「いやいやどうぞごゆっくり」 「ご、ごゆっくりなんて。そんな」 「はいはい。じゃあ、またな」 軽く手を振って、またね、って言って、それからジョージと並んで雪道を歩いた。 吐く息は相変わらず白いし、寒いのは変わらないはずなのに、なんだか暖かくて幸せで、私はいつのまにか笑っていた。 (雪に残った足跡を見て、「足大きいね」と言ったら「が小さいんだよ」と言われた。「もっと大きくなるよ」って言うから驚いたら、ジョージは笑った。それを見て私も笑った) 2012.7.11 三笠 |