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「あ、それ付けてるんだ」


ジョージが指をさしたのは、私の手首で。
そこにはホグズミードで買ったブレスレットが少しだけ顔を出していた。


「ブレスレット? うん。お風呂のとき以外はいつも付けてるの」
「僕も今付けてる」


ジョージは自分の胸元から同じ色の革製ネックレスを取り出した。服の中に入れているようで、傍目には分からない。


「ほんとだ。わかんなかった」
「すぐフレッドにお揃いだってバレたんだよなあ」
「私も、アリスにすぐバレちゃった。普段革のもの買わないからかな」
「僕なんてアクセサリー全般買わないから、バレバレだったよ」


あいつに隠しごとはできないんだよな。
そう言うジョージの顔は明るくて、ああいい兄弟なんだなあって思った。


「でも、買って良かったなあ。ちょっとまだ恥ずかしいけど」
「確かに。と同じもの身に付けてるって…あ」


思わず口を滑らせた、とでも言うように顔を赤らめて口をつぐんだ。
私と同じものを身に付けてるって意識してくれてるんだなあと思うと、私もやっぱり、照れる。恥ずかしい。


「え、っと…その、ふ、深い意味は、ない、けど」
「う、うん。わ、かるよ。だいじょうぶ」
「ん、うん。よかった」


何も彫っていない革のアクセサリーが揺れる。
ホグズミードでの帰り道、少し遠回りをして歩いていたら、偶然革製品のお店を見つけた。高価なグローブなどもあったけれど、きっと余った革で作ったのだろう、お手ごろな値段でアクセサリーが売っており、私たちはお互いにそれを贈った。
少し記念になるものがほしかったけれど、まさか本当に買えるなんて思ってなかった。
お互いに、“今日付き合ってくれたお礼”なんて言い張って、お店のご主人にも笑われた。「二人は付き合ってるわけじゃないのか」と言われたとき、二人ともぼっと顔を赤らめて目に見えてうろたえたから、ご主人は機嫌よく笑い飛ばして、値引きまでしてくれた。「自分のアクセサリーに相手の名前でも彫るか」と聞かれたけれど、さすがにそれは遠慮した。恋人でもないのにそんなのできない。「だろうな。もし付き合って、また名前を入れたくなったらおいで」と笑って言ってくれて、気恥ずかしいながらも、どうにか頷いたのは記憶に新しい。


「あ、そうだ、あの、」
「ん?」


ホグズミードのことを思い出したとき、あの日の会話も思い出した。
まだ、こわいけど。忘れないうちに。


「ほ、箒」
「あ」
「えっと、箒、すっごく下手だし暫く乗ってないし、その…呆れるくらい、ちょっと、ひどい、と思うんだけど、」


ぼそぼそと下手な言い訳をしながら、そっとジョージを見上げた。
その目はちゃんと私を捉えていて、気恥しさがこみ上げてくるけれど、目をそらさずに、ちょっとはっきりと口を開いた。


「良かったら、今度、飛び方、教えてください」


そう言うと、ジョージはお腹を抱えて笑いだした。
えっ、なに、どうしたの。そう言うと、ジョージは雪の上に座り込んだ。私も目線を合わせようと思って、お尻をつけないように屈んだ。


「いいよ。教える。…ごめん、あんまり必死だったし不安そうだったし、ちょっとその…かわいいなとか思った」
「え」
「びっくりした。面白いこと以外で笑うの初めてかも」


はあ、と息を吐くジョージを目の前にして、私は顔を真っ赤にして、結局雪の上に座り込んでしまった。ジョージは曇り空を見上げて、それから視線をこちらに戻した。


「いつにしようか。晴れの日がいいよな」


にこにこと笑いながら、ジョージはそんなことを言った。でも私は心の準備がまだ足りなくて、うっと思わず口に出して、それで少しだけ俯いて考え込んだ。


「えと――、あの、は、春までに覚悟決めとくね」
「ぶっ…」


ジョージはまた吹き出して、けらけらとおなかを抱えて笑った。
私にとって箒で飛ぶってそのくらい怖いことなんだけど、ジョージにとっては歩くことに近いくらい簡単なことなんだろうな。


「そんなに時間かかるんだ?」


からかい口調でそんなことを言われて、かかるよ、とちょっとふくれて言い返した。
それを見て、ジョージは笑って「ごめんごめん」なんて言いながら、軽く触れるかどうかくらいに頭を撫でた。
ふくれるのなんて冗談みたいなもので、そんなことされたらたちまち機嫌よくなって私も思わず笑った。



(次の約束があるだけで、こんなに気分が違うなんて。こわいけれど、それでもいいやと思えた。)
(そのくらい、ジョージがすき)


2012.7.11 三笠