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あっという間にクリスマス休暇に入った。
私は地図と行き方のメモを見ながら列車を乗り継ぎ、どうにか祖父との待ち合わせ場所に着いた。
祖父は仕事が詰まっていて迎えに来られないということで、代わりの人を寄こすと言っていた。目印にと、家でごろごろしていた白黒の猫を連れてきたが、わかるだろうか。猫は最初こそ物珍しげにきょろきょろとしていたが、やはり寒い中連れてきたから機嫌を悪くしてしまった。今では籠の中で毛布を被り不貞寝をしている。


「やあ、お譲さん。君がかな」
「えっ、あ、もしかして、ジョージたちの…」


後ろから肩を叩かれ、振り返ると赤毛の男の人がそこにいた。
びっくりして慌てたけど、見覚えのある髪の色と、優しげな目がジョージやフレッドにそっくりで、すぐに落ち着いた。
確か二人にはチャーリーと呼ばれていた――、ええと、チャールズ・ウィーズリーさん。


「ああ、そういえばジョージたちと同じ学年だって言ってたな。弟たちは元気だったかい?」
「はい、――とっても」
「それは良かった。あの二人のことだからきっと休暇中も悪戯三昧だろうな」


くつくつと笑うその仕草はやっぱり二人にそっくりで。
血のつながりってこういうとこにまで出るんだなあって、内心ではすごく驚いた。


「じゃあ行こう。宿まではまだ遠いんだ。何せドラゴンの住処の近くだからね。夜になったら箒でひとっ飛びだけど、箒で飛ぶのは得意かい?」
「う」


箒で飛ぶなんて聞いてない。
笑顔で訊いてきたチャーリーさんを目の前に、思い切り首を横に振る。
それを見て、やはりまたくつくつと笑って、背中を押してくれた。


「それなら僕の箒に乗ってもらえるかな。女の子を乗せて飛ぶなんて妹以来だけど、安全は保証するよ」
「お、お願いします…。わたし、飛行術の授業でフーチ先生に匙を投げられたほどだめなんです」
「はは、それならなるべくゆっくり飛ぶよ。でも、マグルに見られないように空のずうっと上を飛ばないといけないんだ。高いところはどう?」


そちらも首を横に振るが、嫌な顔一つせずにチャーリーさんは「わかった」と一言頷いた。私が持ってきた荷物を軽々と手にし、少しずつ歩きだす。自分で持ちます、と言ったけれども軽く手で制されて、そのまま任せることしかできなかった。


「僕に全部任せてくれていい。怖いなら僕にしがみついて周りを見ないのもいいだろうし、命綱を結んでもいい。ただ、今日は星が奇麗だよ。もし気が向いたら見るといい」

「は、はい」


確か、クィディッチのプロチームから誘いが来るほどの腕前だと聞いたことがある。そんな人の箒なら安心だろうと少しばかり気が楽になった。
ルーマニアの町並みは初めてだけれど、やはりヨーロッパなだけあって町並みは奇麗だ。東洋人の血が入っている私は黒い髪に小さい身長。ホグワーツにいるときも思っていたけれど、同い年の友人と比べても絶対自分の方が子供っぽく見えて嫌になってしまう。さらさらとした軽くしなやかな
金色の髪はいつ見ても羨ましい。


「そうだ、夕飯は何がいい? まだ4時だけど、食べ終わったら出発するから、早めに店に入ろう。ルーマニア料理に興味はあるかな?」
「あ、えっと…、デザートで申し訳ないですけど、パパナシ食べてみたいです」


甘いものは大好きだ。メニューを見るときはデザートまで見てから頼むものを決めるくらい。今回ルーマニアに来ると決まった時も、もちろんデザートについて本を読んだ。アンジーには呆れられたけど、アリスは同意してくれた。ホグワーツにいる間はあまり甘いものを食べないから、少し、飢えているのかも。


「ああ、いいね。ドーナツとジャムの混ざり具合が絶品だ。じゃあデザートまで食べれる店で、そうだな…、特別食べられないものはない?」
「はい」
「よし、じゃああっちだ。美味しいサルマーレを出す店があるんだ。サルマーレは挽肉と玉ねぎを混ぜてキャベツで巻いてじっくり煮込んだ料理だよ。ルーマニア版ロールキャベツだと思ってくれていいと思う。ルーマニアの代表的な料理だから、苦手でなければ一度食べてみるといい」


そう言われて食べてみると、確かにロールキャベツに似ていて、そしてすごく美味しかった。一口ずつゆっくり咀嚼して丁寧に食べていると、チャーリーさんは「こんなに幸せそうに食べる女の子を初めて見たよ」と笑った。
私の倍以上の量をがつがつと食べるチャーリーさんは、やっぱり男の人で、私は唖然としながらその様子を眺めた。



(そして食事の途中に、この後すぐ空を飛ぶことを思い出して一気に空腹を感じなくなったけれど、残すことなくデザートまで食べ終わった)


2012.7.12 三笠