46


ホグワーツへ戻る列車のコンポーネントで、私は思い切り寝入ってしまった。
クリスマス休暇だというのに、全然休暇にならなかった。
ドラゴンに出会って、そのことをドラゴンマスターに散々訊かれて、すべて話して。褒められたり危険だったと叱られたり、無事でよかったと安堵されたり。なかなかできない経験だった。
そのあとはウィーズリーさん夫婦と妹のジニーさんが家に帰るのにご一緒させてもらい、車に乗ってイギリスへと戻って行った。
おじいちゃんは、まだまだルーマニアに滞在するらしい。
家に帰ると、屋敷しもべ妖精のナーレが恭しく出迎えてくれた。家にいるたくさんの動物たちとじゃれあいながら、久しぶりの自宅での休息を、一日だけ過ごした。
お土産や買い足した荷物などを鞄に詰め込むと、やはり最初よりもずうっと鞄は重くなっていて、ため息をつきながら一人で列車へと向かった。

そして列車に乗り込んだ途端、力尽きたように眠りについた。



かたんかたんと列車は揺れる。
私しかいなかったはずの列車で、目を覚ますと向い側に一人の男の人が座っていた。
ずっと外を眺めていたようだが、私が起きたのに気づくと、こちらに視線を向けた。


「他のコンポーネントが空いてなくてね。申し訳ないけど、座らせてもらったよ」
「あ、はい…。構わないので、お好きなように…」


寝ぼけた頭で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。ふあ、と口元に手をあててあくびをする。まだ眠いけど、あんまり寝顔は見られたくないなあ、なんて思いながらまた窓によりかかる。


「着いたら起こすよ。もう少し寝たらどうだい?」
「…んん…、じゃあ、お願い、します…」
「オーケー。おやすみ、


あれ、私いつ名乗ったっけ。でも同じホグワーツに通ってるわけだし、知り合いじゃなくても名前を知っている人なんて結構いる。ウィーズリー兄弟なんてまさにそうだった。
そんなふうに勝手に決め付けて、私はもう一度目をつむった。





、そろそろ起きたほうがいいよ」


何度か肩をゆすられて、ようやく目を開ける。そこには寝る前にもいた、ええと、名前はわかんないや。とにかく男の人がいて、笑みを浮かべていた。
窓の外を見ると、確かにもうすぐホグワーツに着く。軽く伸びをしてから、目の前の人をまじまじと見た。随分眠ったからか、頭はすっきりしている。


「おはよう。ぐっすり眠っていたようだけど、休暇中はあんまり休めなかったのかな」
「ええ、まあ。いろいろあって。起こしてくれてありがとう、ございます」
「タメ口でいよ。3年生だろ? 僕も3年生だから、同い年だ」
「え、そうだったの」


てっきり年上かと思ってた。そう言うと、彼は苦笑した。
落ち着いた雰囲気で体つきもしっかりしていて、同い年とはちょっと思えなかった。同い年の男子はみんないろんなことを話して面白がって、子供っぽく騒いでいたから、静かな男の人は珍しいなあ、なんて思った。


「君、だろ?」
「そ、そうだけど、あなたは?」
「僕はセドリック・ディゴリー。今年は数占いの授業が一緒だよ」


全然気付かなかったなあと思いながら、顔を見て記憶をたどる。
セドリック・ディゴリー。ディゴリーって聞いたことあるなあ。誰かが話しているのを聞いたのかも。そう考えている間にも、セドリックの話は続く。


「ほんとのこと言うと、ずっと話しかけるタイミングを窺ってたんだ。ずっと君のことを見ていたんだけど、気づかなかったかな」


さらりとそんなことを言って首をかしげながら笑みを浮かべるセドリックを見て、私は顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。



(ほんとなのか冗談なのか。どちらにせよ、わたしを動揺させるには十分な言葉だった)


2012.7.14 三笠