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セドリックと会って、少しだけお話をした。
家のことやホグワーツのこと、数占いの授業のことなど、いろんなことをお話しした。思っていた以上に話しやすくて、いつもは呼び方も話し方もなんだか迷うのに、不思議と迷うことはなかった。


「印象に残ってるのは、あれだね。入学してすぐの組分け帽子で、寮の机に向かうときに1歩目でこけただろう?あれを見て、僕は緊張がすっとんだよ」
「そ、そんな前のことおぼえてるの!?やだもう忘れてっ」
「はは。これを忘れても、まだまだあるよ。飛行術の授業がハッフルパフと合同だったのは覚えてる? あのときはこけることはなかったけど、始終がたがたしながら飛んでたよね」
「ややや、なんでそんな間抜けなことばっかり覚えてるの! せ、セドリックはどうなの、そーいう間抜けなことないの?」


1年の頃の失敗談ばかり覚えていて、羞恥心ですぐに逃げ出したいくらいだ。
セドリックに聞き返しても、笑うだけで面白い答えは返ってこない。


「君に話しかけるのに2年以上かかったのが僕一番の間抜け話かな」
「う…、そ、そんな、普通に話しかければよかったのに」
「なあ。恋愛の経験は?」


そう訊かれて、思わずジョージのことを思い出す。ぼっと顔が赤くなるのが分かった。普通に、なんてどう話しかけたらいいのか分からなくて、声を聞くのを姿を見るのもどきどきして、そういう気持ちを思い出した。
確かに、好きな人に話しかけるなんて、難しい。


「わかるだろ?」
「…今、すっごく普通に話してるじゃない…」
「こう見えて、必死に隠してるんだよ。可愛い寝顔も見られたし、今日の幸運をこの短時間で何度神に感謝したか」


普通に笑って普通に話して、普通の男の人のように見えた。
はっきりと言わないまでも、私に気がある、ような言葉を投げかけてくる。
正直なところ、よくわからなかった。
この人はもしかして、世間様が言うプレイボーイあるいは遊び人、もしくは女好き、女たらしエトセトラ、なのだろうか。
私はあまりこの人のことを知らないし、あとでアリスやアンジーに訊いてみよう、と心に決めた。

そんなとき、ガタン、と列車が一度大きく揺れて、停車した。
窓の外を見ると、見慣れた城が視界に入った。


「着いたみたいだね」
「うん」


私が荷物をまとめて立ち上がるのを確かめてると、セドリックは私の荷物と自分の荷物を持ってコンパートメントを出た。私も慌ててそれに続く。


「あ、あの、自分で持てる」
「僕は荷物が少ないから。気にしなくていいよ」


軽い荷物一つだけのセドリックに比べたら、確かに私の荷物はすごく多い。(フクロウも抱えているし)
けど、やはり私の荷物は重いし、一応初対面(?)の人にそんな迷惑をかけるのは嫌だなあ、なんて思って口を開こうとしたけど、その前に列車を降りてしまった。


「なあ、
「えっ、な、に」
「名前で呼んでもいいかな」
「え」
、だろ? 名前」
「うん。いいよ、えっと、セドリック」


そう呼ぶと、セドリックは嬉しそうに笑った。
結局、城に入って寮に向かう分かれ道まで、セドリックと一緒にいた。
なんだか、すごく、楽しかった。


(ジョージ以外の男の人とこんなふうに話すのは初めてかもしれない)

2012.7.14 三笠