寮に戻って自分の部屋へ行くと、クリスマスプレゼントが積み上げられていた。それを見て、あっと声を上げる。そういえば、ずっとルーマニアにいたから受け取ってなかったんだっけ。 「おかえり、。まだプレゼントを広げてなかったのね」 「ただいま、アリス。そしておかえり。うん、ずっとルーマニアにいたから。フクロウたちにホグワーツに届けてもらうようにお願いしたんだっけ」 正確には郵便局へ伝えた。旅先で受け取るのは手間だし、家も殆ど寄らないつもりだったから。 上から順に封を開けていく。 「あ、それは私のね」 「ほんとだ。ありがとう、アリス。大切にするわ」 封を開けると、星が連なってキラキラ輝くストラップが入っていた。何色にも色を変化させて、どの色もきれいだ。 「叶え星ストラップよ。ひとつだけ願い事が叶うように導いてくれるわ」 「願い事を叶えてくれるの?」 「導くだけよ。チャンスを呼んでくれるの。そのチャンスをモノにするかどうかはあなた次第ね」 そう言われて、何を願おうかなあ、なんて考える。 一瞬、ジョージとのことを考えたけれど、でもすぐにその考えは消した。 できるのなら、こういうものに頼らずに、自分でどうにかしたいから。 「決めた」 「なににするの?」 「…ホグワーツのみんなが、元気で、長生きできますように」 そう祈ると、叶え星はキラリと一度光った。これで願いは決まったはずだ。 ストラップを筆入れにつけたあとで振り返ると、アリスが呆れた顔をしていた。 「それでいいの?」 「うん」 「あなたがなにも願わなくても、きっと何事もなく健康に卒業していくわよ? 闇払いとかドラゴンマスターとか、危険なことに突っ込む職業にでもならない限り、大丈夫だと思うわ」 「うん、それでもいいの。願うなら、自分ひとりでどうにもならないことがいい」 ジョージとのことは、自分でやらないといけないことだから、願わないよ。 そう言うと、アリスは少し表情を和らげた。 「そうね。それがいいかもね。…ところで、そのジョージからはクリスマスプレゼントをもらえたの?」 「あ、どうだろう…。ちょっと待って」 少しずつ包みを開けて行くと、「ジョージ・ウィーズリー」の文字が見えて胸が高鳴った。特に包みはなく、メッセージカードが一枚。「へ。メリークリスマス。クリスマスプレゼントは直接渡したいから、新学期が始まった初日、16時に湖に来てもらっていいかな。ジョージ・ウィーズリー」 時計を見ると、もうすぐ16時だった。 すぐに、椅子から立ち上がり、そのまま外へ向かおうとする。 「? どこ行くの」 「こ、これ。16時に湖って書いてあって」 「あら。じゃあコートくらい着て行きなさい!風邪ひくわよ」 「あ、ありがとう、そうする!」 クローゼットにしまったばかりのコートを持って部屋を飛び出した。 階段を駆け下りて、談話室を通ると、戻ってきたばかりの寮生が休暇中のことを話していた。 何人かにただいまとおかえりを言いあって、駆け足で外へ向かう。 廊下にはあまり人がいなかった。 時計を見ると、既に16時を過ぎている。 走りながらコートを着て、外へ飛び出した。 湖まで走ると、息も絶え絶えで、荒い息を繰り返しながらあたりを見渡した。 「?」 「! あ、ジョ、ージ」 私が見つけるよりも先に、ジョージから声をかけられて、そちらを振り向く。 はあはあと呼吸が乱れて、名前すら満足に呼べない。 走って乱れた髪を今更だけど少し手で整えた。 「そんなに急がなくてもよかったのに。落ち着いたら向こうに座ろうか」 「ん、うん」 ジョージに促されて、切り株のある方へとゆっくり歩く。 次第に呼吸は整っていき、時計を見るとやはり10分ほど待たせてしまっていた。 「あの、待たせちゃって、ごめんね」 「ん? そんなの全然気にしなくていいよ。実際、そんなに待ってないし。さっき帰ってきたばかりなんだろう? おかえり、」 「! あ、た、ただいま…ジョージ」 おかえり、なんて家族みたい。 何度も友人と交わしたその言葉が、ジョージが相手だと全然違って聞こえた。 (いつか本当の家族になれたらいいな、なんて自然と思っていた) 2012.7.14 三笠 |